韓国出身の呉 毘盧(オ ビロ)さんは、子どものころから大のパソコン好き。今でもコードを書き始めると、周りが目に入らなくなるという。
韓国の大学を卒業後、単身日本に渡って就職し、「教えて!goo」の開発などに携わってきた。1年ほど前からは、未知の領域であったAI分野に挑戦。新しい環境にも技術にも、自ら足を踏み入れていく勇気と探究心にあふれている。(執筆:杉本恭子、撮影:水戸秀一)
AIが恋の相談に乗ってくれる!?
――現在のお仕事を教えてください。
AIのチームに所属し、主に人工知能に関連したWebサービスを開発しています。当社で提供している「教えて!goo」のAI「オシエル」を使った「恋愛相談」や「旅えらびサポート」といったWebサービスを開発したり、他の企業と連携してチャットボットを作ったりしています。
例えば「恋愛相談」は、私たちのチームで最初にリリースしたAIのWebサービスです。Q&Aコミュニティサービスの「教えて!goo」には約3000万件のQ&Aデータがあり、最も多いのは恋愛に関する相談です。それらの質問と回答の組み合わせを抽象化し、学習させてモデルを作り、新たな質問をモデルに入れると、AIが最も適した回答を導き出します。AIは一般の回答者と同じ立場で答えるのですが、ユーザーには人工知能が恋愛相談を受けること自体を楽しんでいただいていますし、AIの回答が「good」の評価を得たり「ベストアンサー」に選ばれたりすることも多いです。
また「旅えらびサポート」は、「恋愛相談」のAI技術で培った知識を利用して作ったサービスで、「教えて!goo」のQ&Aデータ以外にgooで蓄積された様々なソーシャルデータと口コミを活用して旅の提案をします。チャットを通じてAIがユーザーの気分を察し、「gooブログ」や「goo地図」の情報から、旅のテーマや行き先を提案してくれるサービスです。
――貴社のAI技術は、どのようなサービスに向いているのですか。
AI技術にも様々な領域がありますが、私たちは「Deep Learning」を用いた自然文処理を得意としています。当社独自の学習モデルで、特に自然な長文を生成することが得意なので、「オシエル」のように長文でのやり取りが必要なサービスや、文章の抽象的な意味を理解した上で毎回違う返事をする対話型サービス等に向いていると思います。恋愛相談「オシエル」と旅行AI以外にも、例えばテレビ局と連携し、膨大なデータを活用して、ドラマのキャラクターのチャットボットも作りました。
AIの入り口は英語の論文だった
――2012年の入社当時はどのような仕事をしていましたか。
「教えて!goo」のWebサイトの担当で、改修や新機能の追加など、設計・実装の業務を担当しました。私はコードを書くことが好きなので、楽しかったですね。Web開発は個人の趣味レベルでしかやったことがなく、大きい規模のサイトを自分で構築していけることがとても新鮮でした。また開発の仕事に偏らず、サイト分析・ユーザー分析の仕事も担当し、技術面以外でもWebサイト運営チームの一員として知っておくべき様々な経験を積むことができました。
――AIの部門に移ったのは2016年10月だそうですが、なぜAIに?
最近とても注目を浴びている分野ですし、エンジニアとしてスキルアップできるのではないかと考えたからです。
実際に業務を始めてみると、サービスを作ることとは仕事の性質が違いますし、機械学習に関する実務経験がなかったので、最初はすごく大変でした。
上司から論文を読むことを勧められ、大量の英語の論文を渡されましたが、あまりにも専門的な内容で、読んでどうすればいいのかも分かりませんでした。とにかく読んで、分からない部分を周りの人たちに教えてもらいながら、なんとかやってみるということを繰り返しました。
AIや機械学習について理解が深まるまでには半年ぐらいかかりましたが、今はお客様にAI技術の活用提案をしています。お客様の課題や要望を聞きながら、蓄積されたデータによってどのようなサービスが展開できるかを考え、ご提案することが楽しくなってきました。
小学生でVB、中学生でC++
――そもそもコンピューターに興味を持ったのはいつですか。
幼稚園のころですね。父の仕事の関係で、家にパソコンがあったので身近な存在でした。ゲームをして遊んだのがきっかけですが、当時は今のようなGUIではなく、MS-DOS環境のコマンドライン、1メガも入らないフロッピーディスクでした。同世代で知っている人はあまりいませんね(笑)
最初はゲームをするだけでしたが、パソコン自体に興味が出てきて、小学生の時にはパソコンの基礎知識やExcelなどの資格も取りました。その過程でVisual Basicを学んだのですが、それもまた面白くて。
――では、すでに子どものころにコンピューター関係に進もうと思っていたのですか。
中学生の時ですね。塾の先生から勧められたのがきっかけで、中学生時代にCとC++を勉強して、大会に出場しました。そのころから、将来はIT系の大学に行こうと決めていました。
――今まで他の仕事を考えたことはありませんでしたか。
ゲームが好きなので、ゲーム業界には興味がありました。就職も、ゲーム関係の企業を考えて活動しました。
また日本語ができるので、日本語を使える仕事も考えたことはあります。翻訳とか、韓国と日本をつなぐような仕事も良いかなと思いました。
日本語はドラマで覚えた
――日本語がとてもお上手ですね。どうやって習得したのですか。
高校時代に日本語の授業がありましたが、そこで習ったのはごく初歩的なことだけで、あとは独学です。
もともと日本のゲームやアイドルが好きだったので、日本語ができればもっと近付けるような気がして、勉強したいと思っていました。日本語学校等に通ったことはなく、日常生活で日本語を使う機会もありませんでしたが、高校・大学と日本のドラマを何度も観ているうちに、フレーズなどを覚え、自然にしゃべれるようになりました。
私の周りの韓国人で日本語が上手な人は、ドラマやゲームで覚えた人が多いですよ。
――では今は、オフの時間をどのようにして過ごしているのですか。
人に会うことも好きですが、家で過ごすのが好きなので、休日はあまり外出しません。趣味はやはりゲームですね。最近はオンラインゲームにはまっています。
コードを書いているときもそうですが、ゲームをしているときも集中してしまうので、やり過ぎないよう気を付けなければと思っています。
いつかまた別の新しい分野にも挑戦したい
――仕事のやりがいを感じるのはどんなときですか。
サービスを無事にリリースできたときに一番やりがいを感じますね。
開発している間はさまざまな問題がありますが、工夫して問題を解決できれば、大変さも感じなくなります。仕事を裁ききれなくて夜遅くなる日が続くこともありますが、使ってくれたユーザーから「面白い」「楽しい」といった声をいただくと、それまでの苦労は消えてしまいます。
――今は最先端のAIに挑戦している最中ですが、今後やってみたいことはありますか。
ゲームの会社などと連携して、AIを使って何か面白いものを作りたいですね。ゲームにはシナリオもあるし、スクリプトもあるので、そういう情報を活用すればこれまでとは違った展開ができると思います。
AI以外ではまだ具体的には考えていませんが、これまで経験のない製品や技術にもチャレンジして、もっと世界を広げたいと思っています。今やっているAI開発も、Webサイトを担当していた時にはまったく知らなかった世界です。新しく勉強し、スキルアップできる分野があれば、また挑戦してみたいです。
将来的には、技術だけでなく企画からマネージメントまでできるエンジニアになりたいと思っています。
日々勉強する向上心が大事
――呉さんは、エンジニアにとって大事なことは何だと思っていますか。
必要なスキルは分野によって違うと思いますが、日々勉強することが一番大事なのではないかと思います。技術はどんどん進歩していますから、現状に満足することなく、自分から勉強して、スキルを上げていくこと、向上心を持ち続けることが大事だと思います。
――今までも、これからもずっと学び続けていく原動力となっているのは何ですか。
1つは危機感や競争心だと思います。私の周りにいるエンジニアは、私より知識や経験が豊富な人ばかりですし、どんどん新しいことを習得していくので、私も負けないように勉強しようと思いますね。エンジニアとしての刺激を与えてもらえる良い上司、仲間や仕事に恵まれているのかもしれません。
それに、新しいことにチャレンジすると、自分自身が成長できて楽しいですね。
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