日本原子力研究開発機構は2019年6月13日、東北大学や理化学研究所(理研)、東京大学らとの研究グループが、マイクロメートルスケールの磁性絶縁片持ち梁(カンチレバー)を作製し、そこに磁気の流れである「スピン流」を注入することでカンチレバーを振動させることに成功したと発表した。
電子は電気的な性質に加えてスピンと呼ばれる自転的な性質を持っており、物質の磁気的な性質はスピンに強く関わっている。スピンの流れであるスピン流は「磁気の流れ」ともいえ、電流と同じように情報を伝送するキャリアとして利用できると考えられている。
例えば、強磁性体(磁石)にスピン流を流し込むことで磁石の向きを反転することができ、この現象は磁石の向きでビットを表す次世代メモリーである磁気ランダムアクセスメモリー(MRAM)の基本技術となっている。一方で、スピンは自転的な性質なので、ミクロな回転と見なすこともできる。
今回の研究は、スピン流によって物体の機械運動が生み出せることの実証を目的とし、磁性絶縁体を加工して作製したマイクロメートルスケールのカンチレバーに磁気的な波としてスピン流を注入することで、機械運動を生み出せることを検証した。カンチレバーは絶縁体のため電流は一切流れず、磁気の流れであるスピン流だけを流すことができる。その結果、スピン流が運ぶミクロな量子力学的回転がマクロな動力となることを実証した。
今回作製した素子では、加熱によってスピン流を注入するため、カンチレバー上に電気の配線を作り込むことなく振動を起こすことができる。そのため、配線が困難なマイクロ機械デバイスやナノ機械デバイスへの応用が期待できるとしている。