ジョージア工科大学のPaul Kohl博士が率いる研究グループが、スパイ映画に登場するような任務完了後に消滅するポリマーを開発した。この成果は2019年8月26日、American Chemical Society(ACS)が開催した2019年秋National Meeting & Expositionで発表された。
今回発表された自動消滅するポリマーは、1年以上かけてゆっくり分解する生分解性プラスチックのようなものではない。ボタンを押して内部機構を作動させるか、太陽光を当てると速やかに消滅するというものだ。
ポリマーは「天井温度」より高い温度になると、それを構成するモノマーに分解される。ポリスチレンのような非常に安定したポリマーとは異なり、Kohl博士が開発したポリマーのような環状ポリマーは天井温度が低い。1つの結合だけを切断すれば他のすべての結合が分解され、解重合が非常に速く進行する。解重合を起こすには、外部か埋め込んだ発生源から熱を加えて天井温度以上にするか、感光性触媒を利用すればいい。
長年、自動消滅するポリマーの作成は試みられてきたが、室温で不安定だったためにうまくいかなかった。しかし今回、同研究グループは、合成中に形成されたすべての不純物を注意深く除去することで、この問題を克服できることを発見した。
さらに、光を吸収して解重合を触媒する感光性添加剤をポリマーに組み込んだ。紫外線だけに感光性を持たせることで、蛍光灯をつけた明るい部屋では消滅させずに生産できて、外に置くと日光への露出によって蒸発するポリマーを作成できた。
同研究グループは他にも、1時間後、2時間後、3時間後といったように、解重合が起きる時間を遅らせる方法なども開発した。
自動消滅するポリマーは、アメリカ国防総省のために開発されたものだ。国防総省は、使用後に自らの存在の痕跡を残さないことで発見を防ぎ、回収する必要のない電子センサーや輸送車を実用化したいと考えている。研究グループは非軍事的な用途にも目を向け、いずれ建築材料や環境モニタリング用のセンサーに使用できる可能性もあると見込んでいる。
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