- 2019-9-11
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- CeO2, PTFE, アルゴンイオン, スパッタリング法, ナノインデンテーション法, ポリエチレンテレフタレート, ポリカーボネート, 中部大学, 研究, 薄膜
中部大学は2019年9月10日、自動車やビルの窓を10分の1近くまで軽くできる新薄膜材料を開発したと発表した。新素材をガラスに成膜すると表面の硬さが約3倍に向上し、プラスチックフィルムへ成膜するとほぼ10倍に向上するという。新素材の成膜により、プラスチック表面の硬さを成膜ガラスと同等まで高められれば、結果として、窓は約10分の1まで軽量化できるという。
ガラス表面の硬さを高めるため、表面に硬いCeO2を成膜する研究が行われている。しかしCeO2は硬いが脆いため、変形によりクラックが多発する問題がある。中部大学の多賀康訓特任教授は今回、フッ素樹脂のPTFEを5~15体積%混合したCeO2の薄膜素材と成膜技術を開発した。これにより、紫外光を80%以上遮蔽し、ガラスの3倍の硬さを維持したまま、曲げによるクラック発生を大幅に改善できると考えた。
実験では、ガラスの表面にアルゴンイオンを用いるスパッタリング法で膜厚100~200nmのCeO2-PTFE膜を成膜。ナノインデンテーション法で測定したところ、表面硬さは約6000N/mm2から約17000N/mm2に向上したことが確認された。成膜後も撥水性は高く、水滴の接触角は90度以上だった。また、可視光の透過率も紫外光の遮蔽率も80%以上と高く、自動車の窓に求められる仕様を上回った。
続いて、プラスチックシートに成膜する実験も行った。材料にはエンジニアリングプラスチックのポリカーボネート(PC)や汎用樹脂のポリエチレンテレフタレート(PET)を採用。それぞれに成膜したところ、PCの硬さは約180N/mm2から約1600N/mm2に、PETの硬さは約300N/mm2から約1300N/mm2に向上した。
CeO2-PTFE膜を成膜したPC樹脂は、自動車用耐候試験条件による劣化が全くない。硬さはガラスを用いた時ほど高くないが、プラスチック基板に表面硬化フィルムなどを用いることで無機ガラスと同等の表面硬さが達成できる。CeO2-PTFE膜の成膜温度は約100℃以下で、プラスチックの耐熱温度より低く、母材の特性が落ちる心配はないという。
CeO2-PTFE膜は自動車だけでなくビルの窓にも適用できる。新素材の成膜により、プラスチック表面の硬さを成膜ガラスと同等まで高められれば、ガラスの数十倍高い衝撃吸収性を生かし、風によるたわみの影響を考慮しても窓の厚さを約5分の1にできる。プラスチックの比重はガラスの約2分の1であるため、窓は10分の1近くまで軽くなり、大幅な省エネルギーにつながるとしている。