精密レーザーマーキングに特化。医療機器から文房具まで幅広く対応――ティアンドエス ラボラトリ

日本には、約22万もの工場があります(総務省・経済産業省 平成28年経済センサス―活動調査 製造業に関する結果。従業者数4人以上の製造事業所数)。その99%以上が従業員数300人以下の中小企業。いわゆる「町工場」などが含まれます。本コラムでは、そんな町工場の持つ技術や取り組みについて、元機械設計エンジ二アの工業製造業系ライターがお伝えします。

今回訪れたティアンドエス ラボラトリは、レーザー彫刻、レーザーマーキング、レーザー加工の受託加工を専門で行う町工場です。工業製品の加工に特化した高精度のレーザーマーキングと、小ロットの発注にも柔軟に対応する対応力の高さで多くの顧客を獲得しています。代表取締役社長の佐藤氏に工場の特色や独自の取り組み、エンジニアに向けてのメッセージなどをお聞きしました。(執筆:馬場吉成)

代表インタビュー 株式会社ティアンドエス ラボラトリ 代表取締役社長 佐藤敦氏

――工場の特色について教えてください。どんな加工をされていますか?

当社はレーザーマーキングやレーザー彫刻、レーザー加工の受託加工を専門としており、工業製品への精密なレーザーマーキングに特化しています。機械製品にシリアルを打つ、医学機器、光学機器に目盛りを入れるなど、ご依頼いただく案件の8割以上がそのような製品加工になります。主要なお客様はカメラや医療関係、精密測定機器関係などです。

もちろん、ペンの側面に名前を入れるといった文房具などのノベルティ製品への名入れ加工もやっています。このような加工は、通常1000本、2000本単位で頼まないとやってもらえないものですが、当社は小ロットでも対応していまして、国内外の大手文具メーカーと直接取引をしています。

レーザーマーキング用のデータを作成する社員。

対応できる素材は条件にもよりますが、金属系なら大体のものは加工可能で、様々な樹脂、陶器、木材、皮革なども対応できます。大きさに関しては、長尺のもので2000mmまで。小さいものだと3mm角のブロックに加工して欲しいという依頼を受けたこともあります。

長さ/幅/厚みは装置に乗る限り対応していますが、工場内にクレーンが無いので一人で持てる重さまでなら対応しています。

位置出し精度についてはレーザーマーキングで±0.1mmまで。実際はもっと高い精度を出せていますが、加工対象は薄いものが多く、平面度も低い、さらに熱の影響で時間とともに変化してしまいます。当社にご依頼いただく案件も、基本的に文字の加工が多いので、実はそこまで高い精度を求められることはあまり多くないのです。もちろん、単価は高くなってしまいますが、精度に関しての希望は叶えることができます。

(金属へ目盛りをいれる加工の様子。)

レーザーマーキングやレーザー彫刻は、個人でも使えるファブスペースのようなところも含めて、やっているところは沢山あります。しかし、ノベルティを取り扱うハンコ屋や印刷屋からこの業界に入ってきた人は図面が読めないことが多く、公差の記号を見ても何のことだか分からない。素材や表面処理についての知識もない人がほとんどです。そのため、レーザーマーキング専業で、図面も読めて、材料の知識があって、工業系のところとなると極端に対応できる社数は減ります。関東で、当社と同じレベルで対応できるところは知る限り1社しかなく、全国で見ても、5社もないかもしれません。私自身も、昔はレーザー切断をやっていたのでCADも扱えますし、機械や建築などの大体の図面は読むことができます。

目盛り入れ加工後の金属。

当社は下請けに徹するようにしています。とは言え、同じものだけをずっとやる下請けとは違い、社内外注的な扱いで、「言われれば全部やりますよ」というスタンスです。

現在、取引している企業数は、400から500社ほどとなり、特定の業界や顧客に極度に依存するという状態ではありません。カメラや医療、測定器、文房具など、いろいろな業種と安定した取引をさせていただいていることも、当社の強みですね。

アクリル樹脂、木材、皮革、金属、非鉄金属など、様々な素材に対応できる装置を備えている。

色々な業界の案件に対応していると、業界特有の知識が蓄積されていきます。そして、その知識を持っていることで、色々なところから次の仕事が受けられ、仕事の幅が広がっていきます。

営業は積極的にかけてはいませんが、ホームページは工業系寄りの作りにして、対応できる素材やサイズなどの情報を細かく載せています。

(レーザー加工機を使った既製品の食品容器の高さ合わせの切断。このような加工も受注している。)

というのも、レーザーマーキングは業種が広すぎて、依頼をしようにもどこに依頼していいのか全く分からなかったりするのです。当社への依頼は、いわゆる口コミや、大半の新しい依頼はインターネットからになります。

樹脂別のレーザーマーキングサンプル。

様々な案件に対応してきた結果、大切なのは加工を依頼されるお客様に安心感をどう与えるかということに尽きると思います。信用できる会社かどうかは最終的には人間の対応に関係してくることだと考えています。例えば、こちらが素材の特性を理解していたり図面を読めたりすることは、双方の意思疎通をスムーズにして、お客様の発注時の負担を減らすことにつながります。お客様に「こちらの依頼を理解してくれている」、「任せることができる」と思っていただけるように日々の業務に取り組んでいます。

――自社製品や何か独自の取り組み、これから力をいれていきたい製品はありますか?

レーザー加工は、印刷やプレスで「同じものを作る」こととは違い、個別、一品物の加工が割と多いのです。そうした案件に対応してきた経験から、高級ネームプレートやタグのブランドを立ち上げ、主にホテル向けに商品を作っています。実はネームプレートやタグは、国内で依頼されて作っているところは結構あるのですが、製品として出しているところはあまり聞きません。

オリジナル高級名札ブランド「PREMY」

当社で手掛けているのは、名札や高級感のあるメタルのルームキーホルダー、クロークタグなど。備品にも高級感を出すホテルも増えてきたことで、インターネット経由でホテルから直接オーダーが入るようになりました。

3S活動における整理整頓の一例。

内部的な取り組みとしては、工場の効率を上げるということで、外部講師にお願いして3S活動(整理、整頓、清掃の3つ)を徹底しています。

また、埼玉県八潮市に拠点を構える製造業の企業と連携して、商業施設でものづくり体験イベント「ワークショップ840」を定期的に開催しています。各社が、叩く、切るといった自社の持ち味を生かしたコンテンツを提供して、一般の人たちにものづくりを体験してもらっています。イベントで体験した後、実際に工場見学をしたいという声をいただくこともありますね。

八潮市以外のこうしたものづくりイベントも、お声がかかれば参加するようにしています。こうした社会貢献の活動は、社員のモチベーションが上がったり、考え方が外交的になったりとか、良い効果があります。

印刷ではなく、レーザーマーキングで金属に描かれた二次元コード。

これから力をいれていく製品としては、金属面へのバーコード印字、長尺のスケールへの目盛り加工です。金属へのバーコード印字は、例えば洗浄が行われるような金属製のトレーに対して、消えないようにマークを施したい時などに問い合わせがきます。3年ぐらい前から引き合いが増えていますね。金属は光を反射するので読み取り率が落ちるため、精度を上げる工夫が必要になります。

――エンジニアの方々に向けてメッセージをお願いします。

まずはレーザー加工の特性を知ってもらいたいです。レーザー加工のメリットは、可変であること。それにより、試作、小ロット、シリアルのような、1個ずつ違う物の加工ならば、レーザーが非常に有効な加工方法となります。単品、数の少ない案件は是非、レーザーを活用してください。こうした案件があれば、是非、当社にお気軽にご連絡ください。「レーザーマーキングならばティアンドエスラボラトリ」と覚えておいていただければ幸いです。

レーザーマーキング、刻印、カットを行うレーザー加工機。

技術を特化させ、ネットも駆使した幅広い対応

ティアンドエスラボラトリは、独自のスタンスを貫く特別な町工場でした。技術を一つの方向に特化させることにより差別化。幅広い業界に対応する技術であるので、細かい要求にも対応する柔軟さ。また、インターネットを使い多くの顧客を開拓しています。近年、エンジニアでも一般の人でも、何か欲しい製品や技術、サービスを探す際にはまずインターネットで検索というのが当たり前になりました。身近にないものならば、インターネットの情報を頼りに探す傾向はより強くなります。現状、製造業ではインターネットによるアピールが弱く、中小の製造業となると全く行われていないということも多いです。そこを上手く使い、さらに技術を特化させることで幅広い顧客を開拓している点は、多くの製造業に広まればよいと思いました。

工場基本情報

社名 株式会社ティアンドエス ラボラトリ
事業内容 レーザー彫刻、レーザーマーキング、レーザー加工の受託加工
所在地 埼玉県八潮市八潮3丁目14-7
ホームページ http://www.t-lab.co.jp/
Mail info@ t-lab.co.jp
電話番号 048-994-5505
FAX 048-994-5506
従業員数 8

設立 平成20年5月
設備リスト

〇レーザーマーキング
金属、非鉄金属(アルミ真鍮等)、不透明樹脂に対してマーキング印字対応可。

最大加工範囲:300mm×300mm
最大積載サイズ:600mm×2000mm
最大ハイトサイズ:150mm ※一部450mmまで対応できる機器1台
最小印字サイズ:0.5mm(識別できる最小)
最小ライン巾:0.08mm
機械寸法公差:±0.1mm
ピッチ公差:±0.1mm
※YVO4レーザーマーキング加工機設備台数3台

〇レーザー深彫彫刻
金属、非鉄金属(アルミ真鍮等)に対してマーキングで深彫加工対応可。

最大加工範囲:100mm×100mm
最大積載サイズ:300mm×300mm
最大ハイトサイズ:150mm
最小彫刻サイズ:0.8mm
最小ライン巾:0.1mm
機械寸法公差:±0.2mm
最大深度:2mm 公差±0.1mm
※ファイバーレーザー加工機設備台数1台

〇レーザーマーキング回転インデックス
金属、非鉄金属(アルミ真鍮等)の円筒形状にマーキング印字対応可。

最大加工範囲:100mm×360°
径数範囲:1φ~100φ
最大荷重:1Kg
角度公差:±0.5°
※形状により制限があります。
※YVO41台、ファイバーレーザー1台にインデックスを搭載

〇レーザー彫刻
アクリル樹脂、木工、陶器に対して熱による彫刻加工対応可。

最大加工範囲:600mm×420mm
※ガルバノタイプは300mm×300mmm
最大積載サイズ:幅780mmまで※荷重により長さ制限はあります。
最大ハイトサイズ:150mm
最小彫刻サイズ:1mm
最小ライン巾:0.1mm
※炭酸ガスレーザー彫刻機
プロッタータイプ 2台
ガルバノタイプ 1台

〇レーザー切断
アクリル樹脂、木材、紙に対して切断加工対応可。

最大加工範囲:600mm×420mm
最大厚み:アクリル10mm、 木材6mm、 紙2Aダンボールまで
※炭酸ガスレーザー彫刻機で切断可能



ライタープロフィール
馬場 吉成
工業製造業系ライター。機械設計の業務を長く経験。元メカエンジニアで製造の現場を直接知るライターとして製造業向け記事、テクノロジー関係の記事を多数執筆。大学時代にプロボクサーをやっていて今はウルトラマラソンを走り、日本酒専門の飲食店も経営しているので時々料理や体力系ネタ記事も書いています。


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