反強磁性体をベースに新しい磁気メモリーデバイスを開発――ビッグデータ処理のボトルネック解消に

Credit: Northwestern University/University of Messina, Italy

米ノースウェスタン大学は、2020年2月10日、伊メッシーナ大学と共同で、反強磁性体を基に、増え続ける消費電力、容量、読み書き速度の需要に対応できる可能性がある新しい磁気メモリーデバイスを開発したと発表した。研究成果はオンラインジャーナル『Nature Electronics』において2020年2月10日付で発表されている。

ビッグデータの台頭により、クラウドやエッジデバイスへの人工知能(AI)搭載が実現している昨今、既存のハードウェアではメモリー容量やデータの読み書き速度、消費電力といった課題があり、データ処理が中心となるコンピューティングの急速な伸びに対応しきれないという懸念があるという。

研究者らは、従来のメモリーによるボトルネックを解消するため、反強磁性体に注目した。反強磁性体の中で、電子は「スピン」と呼ばれる量子力学的特性により小さな磁石のように振る舞うが、反強磁性体自体は、スピンが反平行となるので巨視的磁化を示さない。

従来のメモリーでは保存データを保持するために電流が使われるが、反強磁性体では磁気的に秩序化したスピンを利用するため、連続的に電流を流す必要はない。さらに、磁場と相互作用しないため、外部の磁場によってデータが消去されることがないという利点もある。反強磁性体ベースのメモリーはサイズを小さくするのも容易だが、反強磁性体の磁気秩序を制御することが課題だった。

研究では、反強磁性PtMn(白金マンガン)を用い、直径わずか800nmの円柱を作製した。先行研究で扱われた反強磁性ベースのメモリーデバイスと比べて、10分の1という大きさで、実験では、電流により異なる磁性状態の間を可逆的に切り替えられることが実証された。既存の半導体製造基準との互換性もあるので、企業は新たな設備投資なしでこの新技術を導入できるという。

デバイスは、磁気メモリー業界で一般的に使用されている材料をベースにしており、電流密度はおよそ2 MA cm-2にまで抑えられることも確認された。さらに、書き込み時の電流振幅を変えると、マルチレベルメモリー特性を持つことができるとしている。

マイクロマグネティックシミュレーションによると、異なる磁性状態は、電流に反応して動く渦と反渦のテクスチャーを有する磁壁で区切られた磁区で構成されている可能性があり、平均ネールベクトルを修正していることを示唆したという。

研究を主導するノースウェスタン大学のPedram Khalili准教授は「私たちは、さらにデバイスを小型化することを目指しており、磁性状態の読み取り方法改善に取り組んでいます。電流を電圧に置き換えるなど、反強磁性体にデータを書き込むエネルギー効率をもっと高める方法も検討中で、これはエネルギー効率をさらに10倍以上向上できるかもしれないやりがいのある課題です」と語っている。

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