- 2020-8-4
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- Kit Parker, Matter, ケブラー, トワロン, ナノファイバー, ハーバード大学, 保護服, 学術, 液浸型回転ジェット紡糸(iRJS)技術, 米陸軍戦闘能力開発コマンド兵士センター(CCDC SC), 陸軍士官学校
米ハーバード大学は、2020年6月29日、米陸軍戦闘能力開発コマンド兵士センター(CCDC SC)や陸軍士官学校と協力し、極限温度や銃撃の脅威から身を守れる保護服の材料となる、軽量かつ多機能なナノファイバー素材を開発したと発表した。研究成果は『Matter』に2020年6月29日付で発表されている。
アフガニスタンでの戦闘経験もある同大学のKit Parker教授は、保護服の機動性にも注目しつつ、着用者の命を守る保護服の開発に注力しているという。研究チームは、宇宙飛行士、消防士、兵士など過酷な環境で働く人が直面するさまざまな脅威から身を守ることができる多機能素材の設計を目標としている。
研究は、材料の分子構造と配向に起因する機械的な強さと断熱との間のトレードオフの関係性を知ることから始められた。金属やセラミックなど機械的な強さを備えた材料は、規則正しく整列した分子構造を持っているため、直接受けた衝撃のエネルギーを分散し、構造を破壊されずに耐えることができる。一方、断熱材はその分子構造の秩序性が低いため、熱の伝達を防ぐことができる仕組みだ。
既に商品として存在するパラ系アラミド繊維のケブラーやトワロンは、保護服などに広く使用されている材料で、製造方法を変えることで防弾あるいは断熱用途に利用されている。そこで、研究者らは、ケブラーポリマーを用いて、規則正しく織られた繊維構造とエアロゲルの多孔性を結合させ、多孔性空間を持つ長い連続繊維を作ることを目標にした。この構造では細孔が熱拡散を制限しつつ、長繊維が機械的衝撃に耐えられるという。
研究チームは、液浸型回転ジェット紡糸(iRJS)技術を使って繊維を製造した。液体ポリマー溶液をリザーバーに入れ、装置が回転すると遠心力で小さな開口部から液体ポリマー溶液が押し出されて噴出する。噴出した液体ポリマーは、最初に空気中でポリマーが伸長して鎖が整列する。次に、溶液が液体槽に当たると溶媒が除去されてポリマーが沈殿し、繊維が固形化する。液体槽も回転しているため、形成されたナノファイバーは渦の流れに沿って、装置の底部にある回収部に巻き付くという。
液体ポリマー溶液の粘度を調整して、設計したナノファイバーを多孔質シートとして紡ぎ出すことにも成功。約10分で約100×300mm大のシートを巻き取ることができたという。開発したナノファイバーは防弾と断熱の役割を果たすのに最適な構造バランスだとしている。
ナノファイバーシートの防弾テストには、CCDC SCの協力を得て弾丸の破片による衝撃をシミュレーションしたという。トワロンシートの間に開発したナノファイバーシートを挟んだものと、トワロンシートのみ重ねただけのものとで比較したところ、両者は同等の保護性能を発揮することが確認できた。つまり、開発したナノファイバーは戦闘における防護能力を十分に持っていると判断できるようだ。熱保護テストでは、開発したナノファイバーは市販のトワロンやケブラーと比べて20倍の断熱性を発揮したという。
Parker教授は、今後は開発したナノファイバーを利用し、兵士らを守る革新的な製品として提供できるようにしていきたいとしている。
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