九州大学は2020年7月14日、同大学大学院芸術工学研究院の斉藤一哉講師と米オックスフォード大学自然史博物館の研究者らが共同で、ハサミムシの翅(はね)の複雑な折り畳みパターンを単純な幾何学的ルールで作図できることを明らかにしたと発表した。
昆虫の翅は、コンパクトでありながら瞬時に収納、展開が可能な構造を有しており、工学的な応用も期待されている。特にハサミムシの翅は、展開状態の約15分の1と昆虫の中でも最も小さく折り畳むことが可能で、展開した状態の形を維持する特殊なスプリング機構も備えているなど優れた特性を有する。
冒頭の図(左上)がハサミムシ後翅の展開図設計法の概略を示したもので、赤線で描かれた基本図形からシンプルなルールで折り線を設計できる。マイクロCTによる折り畳まれた翅の3次元形状解析に加えて、折り紙の幾何学も研究に応用された。
作図のルールが判明したことで、冒頭の図(右)の扇子を360度広げた傘のような形状や、冒頭の図(下)のドローン向け展開翼など、目的に合わせてさまざまな形状や大きさで翅を作製することが可能となった。人工衛星用太陽電池パネルや建築物、傘や扇子などの日用品など、多様な製品への応用が見込まれる。
さらに同研究チームは、設計プロセスを自動化するソフトウェアも開発している。また、今回判明した幾何学的ルールは、ハサミムシの近縁種とみられるペルム紀の昆虫の翅の折り畳みにも適用可能であり、2億8000万年前から続いているパターンであることも明らかになった。
今回の展開図設計法は非常にシンプルなものであり、基礎的な幾何学の知識で作図が可能となっている。作図方法は下記の動画で確認することができる。