新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は2020年10月29日、未利用熱エネルギー革新的活用技術研究組合(TherMAT)、名古屋大学と共同で、無電力で世界最大6.2kWの熱エネルギーを輸送できるループヒートパイプを開発したと発表した。大熱量を輸送するため、蒸発器構造をボックス構造へ改良し、凝縮器の最適化を図っている。
これまで熱輸送のために用いられてきた機械式のポンプは、電力が必要、効率が悪い、機械的な機構の寿命が短いなどの課題があり、無電力で高効率に熱を輸送する技術が求められていた。そこで名古屋大学は、電力を用いることなく半永久的に大量の熱輸送ができるループヒートパイプ技術を開発したが、これまでは熱輸送量が数百ワット(W)程度と少なく、大量に熱輸送することができなかったという。
NEDOはこうしたことから、未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発事業の一環として、TherMAT、名古屋大学と共にループ型ヒートパイプの研究開発に取り組み、大熱量ループヒートパイプを開発。これにより、電力を用いずに世界最大の熱エネルギーとなる6.2kWを2.5m輸送することに成功した。
蒸発器、蒸気管、凝縮器、液管から構成されているループヒートパイプは、蒸発器内に設置されたウィック(多孔質)の毛管現象により、液体が表面張力を駆動力にして細い管(毛管)の内側を移動し、ポンプの役割を果たす。
ループヒートパイプ蒸発器構造は円筒形が一般的だが、大型蒸発器構造を円筒形にするには、高精度に大型ウィックを加工する技術が必要となる。しかし、精度の限界によって製造できなかった。また、円筒形であるため、熱源との接触には金属ブロックを介す必要があるなど、高効率な熱伝達ができなかったという。そこで、蒸発器をボックス構造に改良。熱伝導性の向上を図り、熱源と平面での高効率な接触ができるようにした。
輸送管は大型化に伴って大口径化する必要があるが、管径が大きいと凝縮器内で気体と液体が分離し、媒体の循環が上手くいかない問題があった。そこで、凝縮器内の気液二相流動モデルを構築。圧力損失増大を抑えながら、管径を最適化して気液の分離が起きないサイズにしている。こうした蒸発器構造、凝縮器構造の工夫により、水冷自然放熱条件で6.2kWの熱輸送を達成したという。
今後、自動車のエンジンや工場からの排熱利用、電気自動車やデータセンターの機器類の熱マネジメント、大型発熱機器の冷却などへの適用を図り、抜本的な省エネルギー化を目指す。