- 2022-2-10
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九州大学は2022年2月9日、同大学大学院工学研究院が岩手大学、京都大学、高輝度光科学研究センターと共同で、高強度アルミニウム合金の破壊防止法を確立したと発表した。
大型放射光施設SPring-8でのX線CTを利用した4D観察を活用し、高強度アルミニウム合金にある種の粒子を生成させることで、水素脆化を有効に防止できることを見出した。この手法は、アルミニウム合金を高強度化、高延性化するものとして工業的な利用が期待できる。
高強度アルミニウム合金は、航空/宇宙分野や、新幹線、スポーツ用品などに広く使われているが、水素が金属に入り込んで強度が低下する水素脆化や、応力腐食割れと呼ばれる水素が関係する破壊現象により、高性能化が阻まれていた。
水素が材料の強度に及ぼす影響を解明することがアルミニウム合金の高強度化につながるが、水素の存在の可視化や解析が難しく、発表された学説はどれも確証を欠くという状況にあった。また、アルミニウムの液体と固体では、水素が溶ける量が20倍近く異なり、多量の水素が固体のアルミニウムには含まれる。水素が材料の特性に悪影響を及ぼすからと言って、水素を除去することも容易ではなく、水素が多量に含まれていても高性能なアルミニウム合金を得られる手法が望まれていた。
研究グループは2020年4月に、ナノ粒子(化学組成:MgZn2)が水素脆化を引き起こすことを報告。材料中のほとんどの水素が、これまで水素が存在しないと考えられてきたナノ粒子に集まり、この水素の集中でナノ粒子の自発的な破壊が生じ、アルミニウムの破壊につながることを明らかにした。
ナノ粒子の自発的破壊という破壊機構に基づけば、アルミニウムの水素脆化の防止には、水素脆化をもたらすナノ粒子よりも水素を引き付け易い場所を導入すれば良いことになる。この発想から研究グループは、アルミニウム、銅、鉄の3つの元素を含むミクロ粒子(化学組成:Al7Cu2Fe)から成る「水素脆化防止剤」が、水素をナノ粒子よりも引き付け易いことを発見した。
水素脆化を引き起こすナノ粒子にある水素が、ミクロ粒子の導入により、全体の94.5%から34.6%に激減。ミクロ粒子に、アルミニウム中の大多数となる63.4%の水素が集中することを明らかにし、特許として申請した。
しかし、水素脆化により水素を多く含むアルミニウム合金が破壊するように、水素を多く含むミクロ粒子である水素脆化防止剤自体も水素脆化により破壊する可能性があり、アルミニウム合金の特性低下が懸念された。そこで研究グループは、アルミニウム合金中の水素濃度を極限的に高めた後、1本の試験片に含まれる約10万個の水素脆化防止剤のミクロ粒子の破壊挙動を大型放射光施設SPring-8での4D観察で調べた。
その結果、力がかかった時にサイズの大きな水素脆化防止剤ほど高い割合で優先的に破壊し、より微細な粒子は破壊しないことがわかり、水素脆化防止剤の水素脆化は生じず、有効に水素脆化防止剤による水素脆化防止が機能することがわかった。
安価な添加元素で済む提案法は、アルミニウムの水素脆化を防止できる工業的手法と成り得るため、高強度アルミニウム合金のさらなる高性能化や構造部材の軽量化が期待できる。また、リサイクル材の利用などと組み合わせ、資源やエネルギーの節減、コスト削減なども期待される。リサイクル時の鉄濃度上昇というマイナスの効果を、水素脆化防止というプラスの効果に転じることができる可能性もあるという。
研究グループは現在、アルミニウムの水素脆化防止にさらに有効なミクロ粒子を探すべく、探索を進めており、水素をAl7Cu2Feより引き付け易い粒子を見つけ始めている。