- 2022-11-29
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- ACS Energy Letters, クラウス法, クリーンエネルギー, プラズモニクス, プラズモニック光触媒効果, プラズモン, ホットキャリア, ライス大学, 二酸化シリコン, 光触媒効果, 学術, 局在表面プラズモン共鳴現象, 水素, 硫化水素, 硫黄
アメリカのライス大学の研究チームが、精油所や石油化学工場などの脱硫装置、下水や廃棄物処理などから発生する硫化水素(H2S)を、ワンステップで水素(H2)と硫黄(S)に直接分離する手法を開発した。金ナノ粒子表面の自由電子が、可視光の特定波長と強く相互作用して発生する高エネルギー電子「ホットキャリア」が、H2S分解反応のエネルギー障壁を低下させるプラズモニック光触媒効果を利用している。従来の硫黄回収方法のような高温加熱処理や多段処理が不要で、ワンステップで硫黄回収が可能、かつクリーンエネルギーのH2ガスを直接製造できるゲームチェンジャーとして期待される。研究成果が、2022年9月30日に米国化学会の『ACS Energy Letters』誌に公開されている。
H2Sは、腐った卵のような悪臭を放つガスで、しばしば下水や廃棄物埋立て地から発生するが、石油や天然ガス、石炭などの脱硫プロセスの副産物として、石油化学工場などで大量に発生する。このH2Sを分解する触媒技術として知られるクラウス法は、活性アルミナや酸化チタンを触媒として用いて、800℃以上に加熱する燃焼工程を含む多段プロセスが必要で、「H2S排出防止には多額のコストがかかっているのが現状」と研究チームは語る。また、Sを回収する際にH2ではなくH2Oを生成するため、直接H2ガスを得ることはできない。
金や銀のナノ粒子における自由電子の集団的な振動は、特定波長の光と共鳴する局在表面プラズモン共鳴現象を示すことが知られ、光機能材料やデバイスへの応用を目指すプラズモニクスと呼ばれる研究が活発化している。研究チームは、プラズモンを利用した光触媒効果に着目し、H2SをH2とSに直接分離する触媒技術の開発にチャレンジした。
二酸化シリコン粉末の表面に約10nmの金ナノ粒子を分散させると、金ナノ粒子は可視光の特定波長と強く相互作用して 、高エネルギー電子のホットキャリアを生成する。このホットキャリアは、H2S分解反応のエネルギー障壁を低減させるため、極めて効率的にH2とSに直接分離できることがわかった。プラズモニック光触媒は、高温加熱エネルギーを投入することなく、従来クラウス法による熱触媒効果の約20倍に反応性を高めるとともに、ワンステップでクリーンなH2ガスを製造できることが示された。
研究チームは、「下水や動物排泄物など工業分野以外のH2S排出源にも適用でき、低コストで高効率なため、高い経済性がある。更に、必要なのは可視光だけで、外部から加熱エネルギー投入が不要なため、再生可能な太陽光または高効率な固体LED照明を用い、低コストで高効率なH2ガス製造と硫黄回収技術としてスケールアップすることも、比較的容易だろう」と、期待を示している。
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