東京工業大学は2022年7月22日、同大学工学院と北海道大学触媒科学研究所の研究グループが、非平衡プラズマ技術を使って二酸化炭素(CO2)の還元反応の効率を大きく促進させることに成功したと発表した。研究グループでは、CO2の固定化や資源としての有効活用、環境保全への貢献につながる成果だとしている。
研究成果は7月21日、米国化学誌「Journal of the American Chemical Society」オンライン版に掲載された。
研究グループは、反応管内にCO2とH2の混合ガスを流通させ、高電圧を加えることでプラズマを発生させる実験装置を開発。この装置は、Pd2Ga/SiO2合金触媒粒子が下部から送られるガスによって懸濁浮遊した状態になる(流動層)のが特徴で、熱物質輸送能を高め、プラズマ生成活性種と熱流のフラックスを増強することで、熱平衡を超えるCO2転換反応の実証ができるように設計した。
この装置を用いてCO2を還元反応させたところ、プラズマを作用させながら触媒反応を進行させると、CO2のCO転換効率が大きく向上することが明らかになった。さらにプラズマの有無や発生条件などを調整しながら比較したところ、プラズマを作用させない場合と比べて、プラズマを作用させた場合の反応効率は最大で約3倍向上することがわかった。
これは、プラズマによって振動励起することで、CO2分子が反応性の高い構造に変化するのが理由で、活性化エネルギーの変化は、反応速度に対して指数関数的に影響するため、低温でも大きな反応速度が得られる。こうした反応は、これまで最先端の分子線研究や計算科学によって検証されていたが、振動温度だけ励起した非平衡状態を工業的に利用する方法について研究した事例はきわめて少なかった。
2050年のカーボンニュートラル社会の実現に向け、再生可能エネルギーを用いてCO2を一酸化炭素(CO)やメタン(CH4)、メタノール(CH3OH)など有用物質に転換する技術の確立が求められている。しかし、CO2分子は直線状構造で非常に安定しているため、反応効率向上の障壁となっていた。
今回の成果をCO2/CH4改質(CO2+CH4=2CO+2H2)やCO2メタネーション反応(CO2+4H2=CH4+2H2O)に応用すると大幅な反応促進効果を確認した。メタネーション反応はプラズマによって常温駆動が可能で、触媒温度250℃でCH4収率14%と熱反応では活性が低い触媒でも、250℃で64%、300℃で100%という高いCH4収率を達成した。
プラズマによって化学プロセスの熱エネルギー依存度を軽減すれば、熱化学反応では対応できない負荷応答性の向上や、プロセス間の温度ミスマッチに起因した損失を解消でき、変動性再生可能エネルギーの化学プロセスへの大量導入も可能となる。
研究グループでは、貴金属を使わない高活性触媒を開拓し、触媒設計指針を確立することを目指しており、今後、プラズマ触媒反応のスケールアップを図り、CO2再資源化や有効利用の促進によるカーボンニュートラル社会の早期実現に貢献するとしている。