板金/切削加工は怖くない。怒らない加工サービス「meviy」ってなに?

ミスミが提供するオンライン機械部品調達サービス「meviy(メビー)」は、オンラインに板金/切削加工部品の3Dデータをアップすると即座に見積金額と納期が出るだけでなく、エラー箇所まで指摘してくれる。プロユースのサービスだが、実は個人事業主の利用者も伸びているという。実はfabcrossの工作ライター界隈にも愛用者がいるmeviyについて取材した。

筆者はfabcross編集部で編集者として工作ライターを10人ほど担当している。定期的に打ち合わせをしていると「できると思っていた○○で詰まっている」「○○を注文したが、納期が1カ月先だと言われた」といった想定外のトラブル報告が尽きない。常にMaker Faireの3日前みたいな状況だ。

最近では電子部品やボードが買えないという相談も増えていて、Makerとしての苦労を受け止めつつ「……まぁ、なんとかなるよ!」とお茶を濁す回数も増えている。

いろいろな苦労はありつつも、普段からMakerとして活動している人も多い工作ライターの中には、オンラインサービスを駆使している人が結構いる。基板の製造、外装やパーツの3Dプリント、大型のレーザー加工など、個人でも利用できる業者が増えた。それによって、彼らライター陣も設計やデザイン、記事の構成や撮影など、本人がこだわりたい作業に集中できるようになってきた。

そんな中、大江戸テクニカさんがオンライン機械部品調達サービスを使って、自ら開発、製造しているカセットテープDJ装置の筐体をアップグレードした記事を書いた。

ネットで簡単! 板金加工サービスを使ってみた|fabcross

記事でも触れられているように、彼はこれまでMDF合板や光造形3Dプリンターで筐体を作っていたが、強度や品質面での課題も多かった。ところが筐体を金属に切り替えたことで耐久性や組み立て作業の生産性が上がり、素人の筆者が見てもプロダクトとしてのクオリティが向上した。

左が3Dプリントと合板のレーザーカットによる外装。板金加工による金属に変えたことでプロダクトらしさがアップした(写真提供:大江戸テクニカ)。

使用したのはミスミが提供する「meviy」というオンラインサービス。Webサイトは法人向けっぽい見た目だが、企業でなくても個人事業主であれば利用できる。板金加工といえば、加工業者さんとあれこれ要件を詰めるのに時間がかかり、個人にはハードルが高い印象だった。とうとう板金屋の親父さんまでインターネットに置き換わったのかと思うと、工場への取材も多い筆者は驚きを隠せない。ということで、meviyとはどんなサービスなのか、個人が使ってもイラっとしないかなど、運営会社であるミスミのmeviy事業部長 柳沢 将人氏にオンラインでお話を伺った。

ちなみにこの記事は広告記事でもなんでもなく、工作記事編集者としての興味から取材をしている。

プロユースの板金/切削加工サービス

——fabcrossでもmeviyを使っている工作ライターがいるので、今日は楽しみにしていました。早速ですが、meviyを利用している個人ユーザーはどの程度いるのでしょうか。

meviyは製造業企業向けのサービスで、法人と個人事業主の方々にご利用いただいています。現時点では個人事業主の割合は少ないものの、年を追うごとに伸びていますね。

meviy全体の利用データとしてはユーザー数が累計で8万人、これまでにアップロードされたデータは900万パーツになります。会社の規模を問わず幅広い製造業のお客様にお使い頂いています。

——メインは法人でありながら、個人も「個人事業主」だと利用できるわけですね。Webサイトを見ていても、プロユース感が強い印象なのですが、個人の利用者が伸びているのは、どういった理由が考えられますか?

個人事業主の場合、設計から調達、組み立て、経営に至るまで全て自分ひとりでやらなければいけませんよね。そういった忙しい状況下で図面を書き、加工業者とのやりとりを繰り返し、本当にやりたいことに時間が割けないという状況があるかと思います。meviyはデータをアップロードするだけで、加工の可否や見積金額が分かります。加工ができない場合でも、修正箇所が示されるので、ユーザーはすぐにデータを修正して加工依頼できます。

——がんばって作った図面を加工業者に送ったら、「これじゃ加工できない」と怒られたという話は、これまでいろんなスタートアップやクリエイターの方から聞いてきた「あるある話」でもあります。

企業の設計、開発でも同じです。設計はCADやCAE、製造はロボットで自動化、販売はEコマースと、各プロセスでデジタル化が進んでいるのに、調達はいまだにデジタル化が進んでいないという課題がmeviyを始めた原点になっています。

例えば1500点の部品で構成される機械に必要な部品を調達するとなると、部品ごとにデータをバラして、紙図面を作成し、そこから加工業者など外部のパートナー企業にFAXで見積もりの手配をし、その回答を待つまでの時間や納期を含めると、約1000時間、125日もの時間がかかってしまいます。

ご存じの通り、今の日本は労働者人口が減り、働き方改革で1日の労働時間も限られている中で、これまで以上のアウトプットを出さなければいけない状況です。実際にユーザー企業からも「見積もり以外の部分でかかっていた工数がカットできる」「加工できる、できないのやりとりで2〜3日かかっていたが、1日で終わった」という声を頂いています。

今回お話を伺ったミスミ meviy事業部長 柳沢 将人氏。

——大企業の調達現場でも加工業者さんとのやりとりに、そんなに時間がかかっているんですね。個人だとなおさら大変ですよね。

先ほど、meviyのユーザーの大多数は法人という話をしましたが、大学や高専でも利用されています。ロボコンやソーラーカーレースなど、限られた時間と予算で板金加工が必要なシーンとの相性は良いと思います。ロボット大会の中にはルールが発表されてから2〜3カ月以内にロボットを作らなければいけないケースもあります。加えて、大学の先生に伺うと、最近の学生さんは紙の図面を作る機会も限られていて、実はそういった経験の浅いエンジニアにこそmeviyは向いています。

——確かに分からないことだらけなのに、図面のやりとりだけでも苦労しますよね。間違っていたら怒られるかもしれないし(笑)。では、初心者がやりがちなミスにはどういったものがありますか?

板金初心者必見——定番の失敗集

定番のエラーとしては、板厚が一定ではないケースですね。meviyではエラーの箇所もブラウザー上で視覚的に確認できるので、どこをどのように修正したらいいか瞬時に分かります。

(資料提供:ミスミ)

他にも、加工する際のシミュレーション画面を見せて、「今の形状だと、この部分が金型と干渉するよ」というのを動画で提示することもできます。

また、板の端面と穴の距離が近過ぎるとエラーが出ます。この場合も「端から5mm以上開けてください」と具体的な修正方法を提案します。

——修正方法を分かりやすく教えてくれるんですね。

(資料提供:ミスミ)

(資料提供:ミスミ)

こういった板金の穴の位置や曲げの位置の仕様を製造要件と呼んでいるのですが、製造要件についてもユーザーのニーズに沿って地道に改善しています。meviyの開始当初の頃「加工屋さんに比べると、製造要件の指定が厳しい」というご指摘を頂いてからは、小さな機能改善をひたすら繰り返し、それを積み重ねてきたことが評価につながっていると思います。2022年9月にはmeviyのシステム開発に特化した合弁会社「DTダイナミクス」を設立しました。今後もお客様の声を開発にいち早く反映していく予定です。

——データを作る上でのポイントや、初心者向けのコツはありますか?

サイトのマニュアルを読み込む、設計の規格を理解する、などが王道ですが、試しにデータをどんどんアップロードして、上記にあるように製造できないと指摘された箇所を確認して修正することもmeviyだからこそできる使い方だと思います。人間と違ってウェブは怒らないので、気にせずどんどん試していただきたいですね。

meviyのサイト内は初心者向けの記事も多数掲載されている。

——確かに変なデータをアップロードしても画面上で怒られないというのは、メンタル面でもいいことですね。指摘された箇所を直していくうちに板金の製造要件も学べるし。

私たちも、エラーが出たデータのうち頻出している条件や、ユーザーからの要望が多いものについては常に改修しています。また、初心者、中級者向けにウェビナーも開催しています。

サービス改善のためSNSのチェックも

——ユーザーからのフィードバックの話がありましたが、どのようにユーザーの意見をサービスに反映しているのですか?

営業を介してフィードバックを頂くこともありますし、コールセンターに寄せられたお問い合わせ内容なども見ています。それ以外にSNSも常にウォッチしています。

——エゴサーチされてるんですね。SNSで上がっている要望を反映することもありますか?

もちろん、あります。ミスミには「創って、作って、売る」という考え方があります。お客様の声を営業が拾って、それを開発にフィードバックし、素早く開発してお客様に価値を提供するということを、全社員が意識しています。今後もサービスを改善していきますので、SNSで要望や感想を気軽に投稿してください。

ミスミのWebサイトに分かりやすい図があった。

——TwitterやInstagramを検索すると、いろんな作例がありますよね。何か印象に残っているものはありますか?

私たちが想定していない使い方をしているケースもあって、単品のパーツを10個一続きにして発注して、届いたものを自分で切り離すことで安く発注できる方法を紹介している方がいました。ミスミのビジネス自体がロングテールを意識しているので、個人の方の利用もある程度想定していましたが、今となっては想定以上の利用があって、たくさんのフィードバックをSNSからも頂いている状況です。趣味の工作でmeviyを利用していた方が仕事でも使うようになったり、逆のケースもあるので、私たちとしては個人の方の利用も歓迎しています。

※ニッチな商品の売上の総数が、売れ筋の商品の売れ行きを上回るビジネスの理論。

加工できるバリエーションが増加

——今後、どういった機能拡充を予定していますか?

加工のバリエーションとしては旋盤や溶接を追加していく計画があります。また、サービス展開も日本のみではなく、欧米やアジアにも進出する予定です。それと並行して、世界各国の3Dものづくりの企業との連携も進めていきます。

——溶接までできちゃうんですね。Makerだけでなく、ファブレスのスタートアップにとってもさらに便利になりそうですね。パートナー企業はどんどん増やしていくという考え方なんですか?

単純なビジネスのパートナーというだけでなく、meviyの目指すミッションやビジョンに共感をもっていただくことが大前提です。またmeviyはオンラインによる短納期サービスなので、スピードや品質に対応できるパートナーを厳選して提携しています。

——なるほど。先日、meviyのパートナーであるプロトラブズが日本から撤退しました。SNSではmeviyへの影響を気にする声も多数ありましたが、何か影響は起きていますか?

meviyにはFAメカニカル部品とラピッドプロトタイピングという2つのサービスがあり、プロトラブズとはラピッドプロトタイピングのサービスで提携していましたが、プロトラブズの欧州拠点に切り替えて依頼しています。そのため、納期や価格に加えUIにも影響が出ていますが、中長期的には日本のプロトラブズと同じようなUIで発注できるようにしようと話しています。

個人もウェルカム。怒らないサービスを使い倒して

取材の最後に柳沢氏から「恐れずにデータをどんどんアップして試してほしい」と読者にメッセージを頂いた。

利用区分が「法人」「個人事業主」となっているので、ホビーユースや個人利用は考えていないのかなと思いきや、実際は逆だった。個人での利用も歓迎しているし、初心者も利用してほしいとのことで、fabcrossの取材にも親切に対応いただいた。

今回の取材でハッとしたのは「怒らない」ということ。ものづくりの難しい部分でもあるが、工場や加工業者と話が通じない、怒られる、断られるという話は、これまでの取材でもいろんな方から聞いた。個人ユーザーなどものづくりのプロではない層の利用や、少量の注文にも間口が広がっているというのは、良い変化がものづくりの世界にも起きているということなのだろう。

合板の加工やABS樹脂の3Dプリントと比べれば、板金加工はやや値が張ることは事実だが、品質や強度に妥協できないパーツを作りたいときは、meviyのようなサービスにトライするのも良い選択だろう。

fabcrossより転載)

関連情報


ライタープロフィール
越智 岳人
編集者、シンツウシン株式会社代表取締役
2013年、メイテック在籍時にfabcrossの立ち上げに携わる。以降、編集者、ライターとしてハードウェア・スタートアップやMakerへの取材、広告企画などを担当。
2017年に独立。現在はテクノロジー分野の編集・執筆や、スタートアップとの協業や育成に関わる企業のコンサルティングに携わる。
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