- 2022-11-14
- 技術ニュース, 電気・電子系
- KEK, Scientific Reports, SuperKEKB, ビームモニター, 研究, 超短パルス計測, 陽電子, 陽電子捕獲部, 電子, 電子/陽電子衝突型加速器, 高エネルギー加速器研究機構
高エネルギー加速器研究機構(KEK)は2020年11月11日、KEK電子陽電子線形入射器の陽電子捕獲部に広帯域ビームモニターを新たに設置し、電子や陽電子の捕獲過程の可視化に世界で初めて成功したと発表した。
研究グループは今回、ビームモニターを使って、並走しながら走行する電子と陽電子を可視化し、両者の走行時間の差を利用して、分離、捕獲する手法を開発した。
開発したビームモニターは筒状の装置で、棒状の電極を電子と陽電子にできるだけ近づけて90度の間隔で4カ所取り付けた。この電極によって、わずかな走行時間差でも大きく拡大され、精密な計測が可能になる。さらに4つの電極で電子と陽電子の通過位置も同時に分離計測できるようになった。
KEKは7GeV(70億電子ボルト)の電子と4GeV(40億電子ボルト)の陽電子を衝突させ、生成されるB中間子群の崩壊現象から、素粒子の標準理論を超える現象を探索する実験を進めている。
この実験にはSuperKEKB と呼ばれる電子/陽電子衝突型加速器が用いられるが、B中間子を大量に生成するには、大量の電子と陽電子を装置の入射器から効率的に周長3kmのリング加速器に供給して正面衝突させることが必要となる。
自然界に存在する陽電子は非常に少ないため、タングステンなどの重金属に高エネルギー電子を照射して人工的に生成させ、陽電子捕獲部という装置で同時に発生する電子とともに捕獲する。しかし、現在の装置では捕獲効率が50%程度にとどまり、捕獲効率の向上が課題となっていた。
KEKはSuperKEKBや次世代の大型線形加速器を使った実験での陽電子生成の高効率化と安定化に貢献する成果だとしている。また、ビームモニターは厳しい放射線環境下で安定した超短パルス計測が可能なことも実証され、原子炉の炉心近くや宇宙空間での量子ビーム計測に応用できる可能性がある。
研究成果は2022年11月3日、英国学術誌Scientific Reportsオンライン版で公開された。