東レは2016年9月28日、分子結合部がスライドする環動ポリマー構造を導入し、竹のようにしなやかで硬いポリマー材料を開発したと発表した。同ポリマー材料は、従来材料と比較して約6倍の破断伸びと約20倍の屈曲耐久性を備えている。
一般的にポリマー材料は、硬いほど壊れやすく、柔らかいほど壊れにくい。そのため、ゴムなどの柔軟な材料を添加すれば壊れるのを防げるが、強度が低下するため強い力に耐えられなくなる。
ポリマー材料が壊れやすいのは文字通り構造上の問題だ。ポリマー材料は、長い分子が糸毬状に絡み合った構造を形成している。力を受けて変形する際、この糸毬状の分子がほぐれ、最後には一部分に力が集中し切れてしまう。
そこで東レは、柔軟な幹と剛直な節を持つ竹に着目した。竹は節が特定の間隔で存在し、変形するとき力が一部に集中しないため、硬いにもかかわらずしなやかに力を受け流す。分子に加えられた力を分散させられれば、竹のように硬くてしなやかなポリマー材料を開発できると考えたのだ。
同社は今回、分子結合部がスライドするポリロタキサンの構造をポリアミド(ナイロン)に組み込み、硬さや強さと壊れにくさを兼ね備えた材料を開発した。
ポリロタキサンは数珠やネックレスのように、リング状の分子をひも状の分子が貫通した構造を持つ。このリング状の分子とポリマーの分子をつなぎ合わせれば、分子結合部がひも状の分子に沿ってスライドする環動ポリマー構造の組み込みが可能になる。
開発に当たっては、2つの工夫を施した。1つはポリロタキサンの分子設計で、もう1つは2種類以上のプラスチックをナノメートル単位で最適に混合する技術「ナノアロイ」の適用だ。これらの工夫の結果、ベース樹脂とポリロタキサンの分子の結合が初めて可能になったという。
東レが今回開発したポリマー材料は、環動ポリマー構造を組み込まない場合と比較して、材料の破断伸びが約6倍に向上。また、繰り返し曲げ試験における屈曲耐久性が約20倍に高まった。さらに、箱状成形品を用いた衝撃試験では、約2倍強のエネルギー吸収性を示した。
東レは同ポリマー材料を、自動車用構造部材や衝撃吸収部材など、しなやかさが必要な構造用部材のベースポリマーとして展開し、新規用途の開発を進めるとしている。