- 2023-8-1
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- ACS Applied Energy Materials, Li-Si合金, Liイオン, グラファイト陽極, シリコン陽極, プレドープ技術, ライス大学, リチウムイオン電池(LIB), リチウム金属粒子(SLMP), 固体電解質界面(SEI)被膜層, 学術, 界面活性剤
ライス大学工学部の研究チームが、リチウム金属粒子でシリコン陽極をコーティングすることにより、リチウムイオン電池(LIB)の寿命を22〜44%向上できる手法を考案した。界面活性剤によって安定化されたリチウム金属粒子を、シリコン陽極にプレドープすることで、リチウムイオンの消耗を防いでバッテリー寿命を延ばすことができる。また、シリコン陽極により達成できる高エネルギー密度を維持するために、充電容量を過大にしない充放電サイクルの考え方についても明らかにしている。研究成果が、2023年5月22日に『ACS Applied Energy Materials』誌に公開されている。
LIBのエネルギー密度を向上するために、主流であるグラファイト陽極の代わりにシリコン陽極を用いる研究開発が活発に進められている。炭素から構成されるグラファイトは、1個のLiイオンを取込むのに6個のC原子が必要だが、シリコン陽極は1個のSi原子が4個のLiイオンと結合できるからだ。
しかし、Liイオンを多く吸蔵できるシリコン陽極は、そのトレードオフとして大きな体積膨張を起こし、また陽極表面上にnmサイズの固体電解質界面(SEI)被膜層が断続的に形成され、リチウムを消費することから、電池寿命を損い、Liイオンを無駄に消耗するという課題がある。Liイオン吸蔵に伴う体積膨張については、多孔質Si粉末やSiナノワイヤ-を用いた陽極や、一部Siを含んだ複合電極が提案されている。一方、充放電サイクルに伴ってSEI層が変形や破壊を起こすなど、不安定化してLiイオンが不可逆的に消耗する問題に関しては、消耗分を予め陽極に添加させるプレドープ技術が提案されるようになっている。
ライス大学の研究チームは、プレドープ技術により安定したSEI層を陽極表面上に均質に形成させることを目的として、界面活性剤によって安定化させたリチウム金属粒子(SLMP)を陽極にスプレーコーティングする研究に着手した。その結果、界面活性剤の活用が、均質で安定したコーティングを実現し、陽極表面に密着して均一に分布するSEI層を自発的に形成することを見出した。
これにより、充放電サイクルにおいてSEI層が変形や破壊を起こして不安定化することなく、不可逆的なLiイオンの消耗を抑制、バッテリー寿命を22〜44%向上できることを確認した。「スプレーコーティングは、他のコーティング手法よりも均質な分布を達成するのに優れるとともに、工業規模の製造に対応でき、既存のバッテリー製造プロセスにすぐに導入できる」と、研究チームは説明する。
さらにLIBの充放電サイクルにおいては、「充電容量をフルレンジに設定すると、LiイオンがLi-Si合金として不可逆的に固定されるようになるため、充電容量の制御が重要だ。均質なSEI層の形成および充放電サイクルにおける容量制御によって、シリコン陽極を用いたLIBの高エネルギー密度の特徴を活かすことができる」と、研究チームは期待する。