九州大学、九州工業大学、兵庫県立大学、産業技術総合研究所は2016年11月4日、レ二ウム金属の超伝導転移温度が“せん断ひずみ”の導入によって本来の値の約2倍まで上昇することを解明したと発表した。
超伝導転移温度上昇を目指す研究の1つに高圧力実験があるが、一般に高圧力をかけると物体はせん断ひずみにより結晶性が悪くなる。通常、良質の圧力実験のためには、せん断ひずみを小さくする必要がある。しかし今回、レニウム金属の超伝導転移温度がせん断ひずみによって劇的に上昇することが明らかになった。
九州大学らは高圧ねじり加工法を用い、24万気圧下で最大10回転の巨大ひずみを導入し、超伝導転移温度を無ひずみ状態の約2倍の値まで上昇させることに成功。また、超伝導特性と結晶構造を実験的に追跡し、さらに結晶構造データをもとに電子状態の計算をすることで、せん断ひずみがレ二ウム金属の超伝導転移温度に及ぼすメカニズムを明らかにした。
レニウム金属では、せん断ひずみが組織の微細化をもたらす際、結晶の最小繰り返し単位である“単位胞”の体積が膨張。それが電子状態の変化を引き起こし、電子格子相互作用が大きくなると、超伝導転移温度が上昇する。
なお九州大学らは、24万気圧の高圧ねじり加工法での超伝導転移温度の最高値と、身の回りの紙やすりでひずみを導入したときの超伝導転移温度を比較。すると、後者の超伝導転移温度の方が高いことが分かった。これにより、加圧の要素よりも“こする”という要素、つまりせん断ひずみがレニウムには極めて有効であることが判明した。
九州大学らは、マクロレベルで電子の波動関数の位相が揃う超伝導現象が、構造組織を破壊する材料工学的手法で、それもわずかな“せん断ひずみ”で飛躍的に安定化することは、物質科学的な常識を覆すものだとしている。