東京大学大学院理学系研究科の塩谷光彦教授らは、リガクの研究グループとともに、二つの回転子のかみ合いを可逆に切り替えることができるギア分子を開発したと発表した。
光や熱などの外部からの刺激により一定の制御された動きをする分子機械は、有機分子とは異なる機能の構築が可能になると期待されている。しかし、これまでの金属錯体を用いた分子機械の構築は主に、金属イオンを外部刺激として用いるか、金属イオン上に結合する分子やイオンの数の変化により機能を発現させる手法を用いており、金属イオン上に結合している構成要素の位置を変化させる手法は一般的ではない。
今回の研究では、有機分子と金属イオンが結合した金属錯体を用いてギア分子を構築し、「金属イオン上での幾何異性化反応」という金属錯体固有の性質を運動制御に用いた。ギア分子については、トリプチセンと呼ばれるプロペラ型の有機分子に着目、その連結部位の炭素を金属イオンに結合可能なリン原子と窒素原子に置き換えたアザホスファトリプチセンという有機回転子を設計・合成した。この有機回転子では金属イオンとリン原子の間の結合を軸とする回転が可能となる。
この有機回転子と塩化白金酸塩とを反応させ、白金イオンに有機回転子と塩化物イオンが二つずつ結合した白金錯体を合成。X線単結晶構造解析の結果、合成した直後は二つの回転子が隣り合ったcis体と呼ばれる構造となっており、cis体の錯体は二つの回転子が錯体分子内で互いにかみ合った構造をとっていた。
次にこのcis錯体に紫外光を照射すると、白金中心の幾何異性化が起こり、回転子が向かい合わせになったtrans体と呼ばれる構造に切り替わることがわかった。二つの回転子は互いに離れて位置し、かみ合わない状態になる。
トルエン/ジクロロエタン溶媒中でcis:trans = 100:0の状態からの紫外光を照射すると、cis:trans = 19:81となり、trans体が主たる成分に変換。この溶液を100℃で加熱すると、cis:trans = 78:22と、cis体が主たる成分となった。光と熱により、かみ合う/かみ合わないの切り替えを可逆的に行うことができ、また何度でも繰り返すことができるとわかった。
同研究グループによると、今回の研究により、金属イオン上の幾何異性化反応による分子運動の伝達を切り替えることが可能となり、金属錯体の特性を活かした分子機械の新しい構造モチーフと制御方法を提案できるとしている。また、薬品を系中に加えずに制御が可能であるため、モーターやブレーキといった既存の分子機械と組み合わせて、より複雑な分子機械の開発も期待できるとしている。