EV用の電池・モーターだけじゃない。自動車業界で活躍する電気系エンジニア[クルマ技術の今]


~ 自動車業界の技術トレンドを各分野から見る ~

本記事は、エンジニア専門の人材紹介会社メイテックネクストのキャリアコンサルタント・有城 正敏氏への取材記事です。自動車業界の技術やキャリアのトレンドについて、機械系・電気系・ソフトウェア系・化学系といった専門分野別に考え、エンジニア市場の変化、求められるマインド・専門性など、エンジニアのキャリア形成に役立つ情報を発信していきます。

過去6回にわたり、機械系エンジニア向けに自動車業界の市場動向をお伝えしてきました。今回からは機械系から電気系・ソフトウェア系のエンジニア市場へとテーマを変え、最新事情をレポートしていきます。

1回目となる今回は、自動車業界における電気系エンジニア市場について、概要を伺いました。(執筆:中嶋嘉祐)


――2017年に、自動車業界では「EV(電気自動車)シフト」が大きなキーワードとなりました。EVシフトの影響で、電気系エンジニアの採用は急増しているのでしょうか?

[メイテックネクスト有城 正敏氏]「EVシフト」と叫ばれるようになる以前から、自動車業界にはエンジンやエアコンなどを制御するECU(電子制御ユニット)の開発に携わる電気系エンジニアを採用したいというニーズがありました。

「EVシフト」と言われるようになったころから、そうした以前からのECU関連の採用ニーズに加えて、電池やモーターなどに詳しいエンジニアの募集が増えてきたのは間違いありません。

EVに搭載する電池を効率的に扱うためには、電気系エンジニアの力が必要です。セル(単電池)は化学系エンジニアが開発することになりますが、複数のセルで構成されるバッテリーパックを設計・開発するのは電気系エンジニアです。さらに電池の寿命を延ばすため、各セルを偏らずに利用する制御方法などを電気系エンジニアが精緻に考えていくことになります。

“南武線沿線の電気系エンジニア”は引く手あまた

[有城氏]また自動車業界にはEVシフトとは別に、自動ブレーキなどの先進運転支援システム(ADAS)の導入を進める動きがあります。

ADASには画像認識技術やセンシング技術、ミリ波を使ったレーダーなどの技術が不可欠。こういった技術は、自動走行システム(ADUS)にも欠かせません。

一時期、トヨタ自動車がJR南武線沿線に「シリコンバレーより、南武線エリアのエンジニアが欲しい」「えっ!? あの電気機器メーカーにお勤めなんですか!」といった求人広告を出したことがWebニュースなどで話題になりましたが、まさに電気機器メーカーで働き、画像処理やセンシング、通信などが分かる電気系エンジニアは引く手あまたです。

そう遠くない将来、完全自動運転が普及するようになれば、自動車の購入検討時に走行性能よりも居住性を重視する消費者がより増えてくることでしょう。そうなったとき、快適に過ごせる車内にするため、使いやすい家電のユーザーインターフェースを考えてきた方など、南武線沿線で活躍してきたエンジニアに対する評価は今よりもさらに上がるかもしれません。

技術的な課題が山ほどあり、取り組む価値も意味もやりがいも非常に大きい

――完全自動運転が現実味を帯びてきたことで、自動車業界に魅力を感じるエンジニアは増えているのでしょうか?

[有城氏]完全自動運転は旬のテーマです。これをきっかけに自動車業界に興味を持つエンジニアは増えてきているように感じます。

自動運転について言えば、センシング技術を考えてみても状況ごとに「LiDAR(Light Detection and Ranging)がいい」「ミリ波レーダーが最適解」「カメラで撮影して画像処理するのが最善」といった具合に正解が変わってきます。センシングによって得たデータの処理方法にしても「自動車の中で処理する」「サーバーに1度送って処理する」といったやり方が考えられます。こうしてみると考えることは多く、半導体や通信といった技術領域も関わってきます。

このように自動車業界では今、いろんな技術領域を集結させて、電気自動車や完全自動運転の実現・高性能化に取り組んでいます。 ダイソンやパナソニックのように、これまで自動車業界とは縁遠かった電機メーカーも、自動車開発に深く関わるようになってきました。さまざまな立ち位置で自動車開発に携わることが可能になり、転職希望者にとって有利な“売り手市場”にもなっています。それだけに、自動車業界で働くことに興味があるのなら、「なぜ自動車開発に興味があるのか」「どのような形で開発に関わりたいのか」と自分の本当の気持ちとしっかり向き合うところから始めた方がいいでしょう。

今の自動車業界には技術的な課題が山ほどあります。電気系エンジニアにとって、取り組む価値も、意味も、やりがいも、非常に大きなプロジェクトが待っている業界だと言えるでしょう。


有城 正敏(メイテックネクスト 電気・電子・半導体分野 コンサルタント)

<プロフィール>
学生時代は物理学を専攻。真空成膜装置の技術営業やメモリ・ストレージ製品の営業として製造業に関わった経験と、メーカーの採用担当として書類選考や面接官を行った経験をあわせ持つ。

<メッセージ>
転職というと、「やりたい仕事ができる会社はどこか」「自分の経験で何ができるのか」「そもそも転職すべきなのか」など、さまざまな思いや悩みがあると思います。
その考えを理解し、前向きな転職を実現することを目標に、皆様が納得して新たな選択をできるよう精一杯お手伝いさせていただきます。


取材協力先

メイテックネクスト
メイテックネクスト分野別コンサルタント

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