半導体原子シートである遷移金属ダイカルコゲナイドの新たな合成機構を解明――単結晶原子シートの大規模集積化合成にも成功 東北大学

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約3万5000個の単層結晶WS2が集積化合成された基板写真(左)と単層結晶WS2の構造模式図(右)

東北大学は2019年9月10日、原子オーダーの厚みを持つ半導体原子シートである遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD)の新たな合成機構の解明に成功したと発表した。

TMDはモリブデン(Mo)やタングステン(W)などの遷移金属と硫黄(S)などのカルコゲン原子から構成され、グラフェンにはない半導体特性を示すため、半導体エレクトロニクス分野で非常に期待されている。その成長初期過程は未解明だったが、高品質なTMD合成に向けて成長機構の解明が望まれていた。

TMDの合成機構に関して、原料が気相から基板に供給され、基板表面で原子オーダーのシートが成長することは知られていた。しかし、どのような組成の原料(前駆体)がどのように基板に供給され、その後どのような過程を経て原子層シートの成長に至るかに関しては解明されていなかった。

TMDの特異な物性は主に、3次元結晶から小片を粘着テープで剥がした微小結晶で観測されたものだ。この特性を実用デバイスに活用するためには、大面積、高品質の単結晶合成手法の確立が必須となる。また、単結晶合成技術において、大面積化、高品質化、集積化、結晶方位制御、欠陥密度制御、層数制御など、多くの問題が残されている。そのため、TMD原子シートの成長機構の解明は最優先課題だった。

そこで東北大の研究グループは、TMDの結晶成長初期過程を解明するため、まず結晶成長が開始する核発生サイトを制御する手法を開発した。具体的には、あらかじめ基板上にナノメートルオーダーの金(Au)ドットを配置して、TMDの一種である二硫化タングステン(WS2)を合成した。その結果、Auドットから選択的に単層単結晶のWS2を成長させることに成功した。

その後、この手法を活用して、合成機構の解明に取り組んだ。まず、前駆体が基板上を拡散する距離を実測するため、Auドットの周囲にあらかじめ拡散を防止する構造を基板上に作り込み、拡散防止構造と結晶サイズの関係を詳細に解析した。その結果、WS2の結晶成長に使われる成長前駆体は、基板上を750μm以上も拡散した後、核となるAuドットに捕捉され成長を開始することが明らかとなった。

この拡散長は、一般的な半導体材料であるシリコンや化合物半導体と比べて約100倍以上長い値だ。従来の半導体では原子、分子レベルでの前駆体拡散機構が一般的なモデルだったのに対し、今回明らかになった100倍以上長い拡散長は、従来のモデルでは説明できない新たな成長機構の存在を意味する。

次に、成長状態をその場で観察できる合成装置を独自に開発し、WS2の結晶成長のその場観察を行った。その結果、Auドットに取り込まれた前駆体が一度円形の液だまり状態を取り、液だまりが一定サイズ以上に増加した後、三角形の単結晶原子層シート構造の成長が開始する一連の成長推移が明らかになった。TMDの成長状態をその場観察した成果はこの研究が初めてだという。

この特異な成長過程と前述の長距離前駆体拡散を考慮すると、前駆体自体がナノスケールの液体状態を取り、液滴として基板上を拡散することで、従来の半導体に見られる原子、分子状拡散より格段に長い距離の拡散が実現できたと考えられる。このような、液滴前駆体による一連の結晶成長機構を基に合成条件を最適化した結果、cmオーダーの実用スケール基板上に3万5000個以上の単層単結晶TMDを均一に高度集積化合成することに成功した。

今回の研究は、従来粘着テープで剥離した小片を用いた原理実証実験にとどまっていたTMD研究に対し、単層単結晶TMDを任意の場所に大規模集積化合成を可能とした画期的な成果だという。今後、フレキシブルセンサーや高性能なフレキシブルトランジスタなどへの実用化が期待される。また、この手法を活用することで、今後単結晶サイズの飛躍的な増大や構造欠陥導入機構の解明、結晶方位制御などへの貢献も見込まれるとしている。

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