氷の上が滑りやすい理由、ついに判明か――100年以上の謎への挑戦

日本のスケート選手が氷上を軽快に滑る姿を見るのは実に心地よいものだが、氷の上が滑りやすい理由は、実はよく解っていない。

これは100年以上前から議論され続けている課題だ。よくある説明は、スケートのブレードが氷に高い圧力を掛けると、氷が融けて水の膜ができるので滑る、というものだ。しかし、この説では長靴でも滑ることの説明が付かない。

そこで持ち上がったのが、摩擦熱で氷が融けて滑るという説だ。とは言え、水が潤滑剤として不適当なことはよく知られている。そのため、摩擦熱で生じた水の膜が摩擦を減らし、氷上を滑りやすくする、という見解には疑問が残る。

最近では、水の分子が氷の上を転がるので滑るという説もある。

このように、氷の上が滑りやすい理由についてはさまざまな説が提起されているが、いずれも立証されたものではない。そこで、フランス国立科学研究センター(CNRS)の研究チームはこのたび、特別な装置を導入することによって、氷の上が滑りやすい理由に迫った。

この装置は、音楽に使われるものと同様の音叉(おんさ)を使い、氷上滑走の間に働く力を高い精度で検出できる。数cmサイズの装置なのだが、その感度はnmスケールで摩擦の特性を分析するのに十分だ。

研究チームは計測の結果、摩擦によって、厚さ数100nmから1μmの層が生じることを発見した。この層は、複雑な粘弾性と油のような粘着性のある水でできている。このことは、氷の表面が完全に液体の水に変化するのではなく、「かき氷」のような混合状態になることを示唆している。

研究者達は、氷の上が滑る謎をこの薄い層の粘着性で説明できると考えている。この研究結果を応用すれば、ウインタースポーツにおける滑走の現象について理解を深められる。また、凍結道路での横滑りを避けるために摩擦を増やすことに対して革新的な解決策を提案することに役立つという。

研究成果は、「Nanorheology of Interfacial Water during Ice Gliding」というタイトルで、科学ジャーナル『Physical Review X』に2019年11月4日に発表されている。

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