安全で大容量な全固体リチウム電池の新材料を開発――塩化物固体電解質を採用で安全な車載電池の実現へ 名工大

名古屋工業大学は2020年7月9日、高成形性の塩化物固体電解質材料による高エネルギー密度を有するリチウム金属電極の安定した充放電サイクルを実現したと発表した。全固体電池の高エネルギー密度化には、固体中をリチウムイオンが伝導する固体電解質が重要な鍵を握っている。この新材料は、次世代型電池として期待される全固体電池電解質の高エネルギー密度化を実現するものだ。さらに高電位材料の電極を開発することで、電気自動車の安全性の向上や走行距離の増加が期待できる。

電気自動車に用いられるリチウムイオン電池には、走行距離の増加につながる高エネルギー密度化が求められる。リチウムイオン電池は、化学エネルギーを負極と正極との間のリチウムイオンのやりとりで電気エネルギーとして取り出す。負極にリチウム金属を用いた電池が究極の高エネルギー密度電極として知られているが、充電時にリチウム金属が樹脂状に析出 (デンドライト) し、短絡が生じることで爆発などの危険があり、実用化はされていない。

また、現在のリチウムイオン電池には、リチウムイオンの通り道として有機電解液が用いられているが、この材料も可燃性であり爆発の原因となっている。この有機電解液を不燃性の無機固体電解質に置き換えられれば、高い安全性を確保できる。

一方、全固体電池における固体電解質層には、リチウムのデンドライトを物理的に抑制する機能が期待されるが、電解質を固体にすることで生じる固体―固体同士の接合やその界面でのイオン伝導性の低さに課題がある。従来の酸化物固体電解質の場合は、一般的に1000℃等の高温で焼結する方法によって固体―固体粒子間を接合するが、電極材料との副反応や元素の蒸発、各層の湾曲などが生じる。また、高温処理による焼結後でもデンドライトを完全に抑制できていないのが現状だ。

研究では、圧粉のみによって強固な固体―固体接合を実現する高成形性固体電解質材料の探索を行った。始めに、伝導するリチウムイオンに対して必要となる対アニオンとして、塩化物イオンに注目。塩化物イオンは従来材料中の酸化物イオンに比べて、低い電荷密度を有しリチウムイオンとのクーロン相互作用が弱いため、リチウムイオンを束縛せずに高速イオン伝導を実現できる可能性がある。また、塩化物イオンは分極率も高いことから、圧力によって粒子が変形することも期待される。しかし、全てのリチウム含有塩化物が安定であり、高速イオン伝導性と高成形性を有するわけではない。

そこで、既存の材料データベース (Materials Project) に収録されているリチウム塩素含有化合物全てに対して、第一原理計算と古典力場計算を用いて、イオン伝導性、成形性および熱力学安定性の指標となる物性値を網羅的に計算した。その中で、すべての指標について最も有望な値を有する単斜晶LiAlCl4に注目した。一方で、LiAlCl4の構造は、既存のリチウムサイトの間の広い空間にリチウムイオン伝導経路が存在することが判明した。その経路上にリチウムイオンを占有させることができれば高イオン伝導が発現すると考えられる。そこで研究者らは、リチウムイオンを非局在化させ伝導経路中のサイトにも存在するように、準安定状態が得られやすいメカノケミカル合成法を採用した。

メカノケミカル法により合成されたLiAlCl4は、X線回折測定とリチウム核の核磁気共鳴分光法から、従来と同じ単斜晶系の構造を有しながら、リチウムイオンが一部伝導経路上に存在する構造が明らかになった。また、その圧粉体は高い相対密度94%を有し、イオン伝導においてほぼ無視できる (7.5%) 固体―固体間抵抗しか存在せずに、従来の酸化物材料よりも1桁以上高いイオン伝導性を示すことを、緩和時間分布法を用いた電気化学インピーダンス解析によって解明した。リチウム金属電極を用いた電池の固体電解質材料として主に研究されているガーネット型酸化物電解質材料の場合は、相対密度が63%であり、固体―固体間の抵抗割合が全体の99.9%を占めたことから、本材料が高い成形性を有することが分かった。

それらの固体電解質材料を、リチウム金属電極を用いた全固体電池に適用したところ、従来の酸化物電解質材料では、1回目の充放電サイクルで短絡したのに対し、本研究の塩化物材料では70サイクルの間安定した充放電サイクルを実現した。

開発された塩化物材料は高い酸化耐性も有する。そのことから、リチウム金属電極の対となる正極に高電位材料を用いることで、新しい高エネルギー密度全固体電池を実現することが期待できる。

 

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