高品質で高純度な窒化インジウム薄膜作製に成功――次世代型高周波デバイスとして期待

高周波デバイスに向け、新しいトリアゼニド分子を利用して、高品質高純度窒化インジウム薄膜を初めて作製 Photo by Karl Rönnby

電子移動度が高く次世代型高周波デバイスとして期待されている窒化インジウム(InN)について、結晶性に優れた高品質高純度の薄膜を作製する新しい手法が、スウェーデンのリンショーピング大学の研究チームによって開発された。今後益々需要が拡大する無線データ通信に用いられる帯域幅を、更に拡大する有力な手段の1つとして期待される。研究成果が、2020年4月24日に『Chemistry of Materials』誌に公開されている。

現在、無線データ通信に用いられている周波数帯は、近い将来空きがなくなることが予想され、増大する需要に対応するためには、新たな周波数帯を使い、使用可能な帯域幅を拡大する必要がある。このような問題の解決方法の1つとして、窒化物半導体の中でバンドギャップが最も小さく電子移動度が高いことから、高周波デバイスに適していると考えられるInNが注目されている。一方、InNは格子整合する基板材料が存在しないので、結晶性の高い高品質の薄膜をエピタキシャル成長させるのが非常に難しく、これまではサファイヤ基板や窒化ガリウム基板へのヘテロエピタキシャル成長に頼らざるを得なかった。そのため、結晶欠陥として高密度の貫通転位が発生し、InNのデバイス化を阻む大きな要因になっていた。

多くの半導体材料の薄膜作製には、充分に確立した技術であるCVD法が活用されているが、そこで採用される温度は800~1000℃の間である。ところがInNは600℃以上に加熱されると、簡単に構成要素のインジウムと窒素に分解してしまう性質がある。そこで研究チームは、もう少し低温度を採用でき、CVDの一種である原子層堆積ALD法に着目した。更に、ALD法におけるプリカーサとして、インジウム・トリアゼニドという新しい分子を採用した。このトリアゼニド分子は、インジウム原子を中心として、周囲に炭素と窒素などから成る配位子が配列する錯体だが、研究チームは、この分子が高揮発性であり、更に325℃近傍の温度において気相中で分解し、反応性の高いインジウム原子を実現することを見出した。そして、基板として炭化ケイ素を用いると、自己制御効果により基板上に1層ずつ堆積し、前後に堆積される窒素原子層と結合して、最終的に正確な成分比を持つInN薄膜をエピタキシャル成長させられることを発見した。その結果、結晶欠陥のない高品質で高純度の窒化インジウム薄膜を作製することができた。

これまでALD法の研究者は、一般に「プリカーサ分子はどんな場合でも、気相中で反応または分解させてはいけない」と認識してきたが、「トリアゼニド分子は、気相中で小片に分解し、これがALDプロセスを向上させる。気相中で充分に安定でない分子を用いることは、ALDにおけるパラダイムシフトだ」と、研究チームは説明する。さらにインジウム以外の金属のトリアゼニド分子についても研究しており、有望な結果を得ているという。

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