金属3Dプリンターによるハイエントロピー合金の耐食性向上に成功――ナノ組織形成により不動態皮膜が強化 東北大学ら

東北大学は2020年8月31日、仙台高等専門学校および日立製作所と共同で、金属3Dプリンターを用いてハイエントロピー合金の耐食性を向上させることに成功したと発表した。

ハイエントロピー合金は、一般的に5種類以上の構成元素が等モル組成または概ねそれに近い組成で含まれる多元系合金だ。一般的な主要元素を持つ合金と比較して、大きな固溶強化や低温時の優れた破壊剛性など独自の材料特性を持つことから、さまざまな研究の対象となっている。

今回の研究では、まず金属3Dプリンターの1つである電子ビーム積層造形(EBM)によって作製した等原子比組成のAlCoCrFeNi系ハイエントロピー合金の腐食挙動について調査を実施。EBM材と鋳造法で作製した既存材において、3.5wt.%NaCl水溶液中における分極試験により耐食性を評価した(冒頭画像参照)。EBMで作製した同合金の底辺部において、緻密で安定性に優れた不動態皮膜が形成されていることによって耐食性が向上していることを発見した。

さらに電子線後方散乱回折(EBSD)測定や走査透過電子顕微鏡(STEM)による構造および組織分析などを実施。その結果、EBMの特徴である急冷凝固と高温保持からなる複雑な熱履歴に起因したナノ組織形成によって腐食環境で形成される不動態皮膜が強化されることで、底辺部で優れた耐食性が獲得されるものとの結果を得ることができた。

今回の研究では対象の合金の耐食性が向上することを明らかにすると共に、造形中のナノ組織形成との関係から耐食性向上のメカニズムを解明。ハイエントロピー合金と金属3DプリンターによるAdditive Manufacturing(AM、付加製造)技術の双方の発展において重要な成果になるという。

今回の研究成果は、化学プラントや石油、天然ガス井の掘削設備などの部品や、過酷な腐食環境で利用される金属部材の安定性/信頼性向上に貢献できるという。さらに、今回の成果はハイエントロピー合金以外の複雑組織を持つ既存合金に対しても応用可能だ。

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