東北大学は2020年11月4日、岩手大学、高輝度光科学研究センターと共同で、金属有機構造体(MOF)の薄膜をアクリル樹脂などの高分子材料の表面に簡便に作製する手法を開発したと発表した。大がかりな製造装置なしで、2種類のMOF原料溶液に基材となる高分子の板を交互に浸すだけでMOF薄膜が作製できる。
活性炭や珪藻土、シリカゲルなどに代表される多孔質材料は、微細な大きさの空孔があり、様々な物質を吸着しやすい性質を持つ。多くは無機物だが、無機物と有機物を組み合わせた有機―無機ハイブリッド材料からなる多孔質材料も開発されており、規則正しいナノサイズの空孔を持つ「金属有機構造体(MOF)」はその代表例となる。
MOFは数多くの金属と有機分子の組み合わせで組み上げることができ、自在な構造を設計/合成できる点も特徴となっている。これまでMOFの多くは、原料となる金属イオンと有機分子を含む2種類の溶液を直接混合していたため、粉末として得られてきた。
この手法は簡便かつ大量のMOF粉末の合成に適した方法だが、薄い膜として作製することは困難だったという。そこで本研究グループは、高分子の薄膜を得るために使われる交互吸着法に注目。MOF薄膜の作製にこの手法が適用できないか検討した。
交互吸着法は、基板を別々の2種類の溶液に交互に浸漬する手法で、分子レベルの極めて薄い膜を基板表面に連続的に作製できる。研究では、金属イオンの溶液と有機分子の溶液の2種類を用意。基板の材料には、家庭でも用いられる一般的な高分子材料を4種類選び、基板をこれらの溶液に交互に浸漬し、MOF薄膜の作製を試みた。
得られたMOF薄膜の構造は、放射光施設SPring-8を利用して分析。その結果、高分子材料の極性に応じて異なる構造のMOF薄膜が得られることがわかったという。具体的には、MOF膜は極性の低いポリスチレンの表面にはあまり成長せず、極性の高いアクリル樹脂やポリビニルアルコール、ナイロンの表面には規則的に成長させることができた。
今回、MOFを薄膜として得たことにより、電子機能素子への応用展開が期待できる。研究では、活性層としてMOF薄膜を組み込んだ抵抗変化スイッチを動作させることに成功しているという。今後は、MOF膜の成長原理のさらなる解明に向けた基礎研究と、電子素子への展開に向けた応用研究の両面から研究展開が期待される。