- 2020-12-21
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- CMOS製造プロセス, CORNERSTONE研究用ファンドリー, Graham Reed, Mountbattenクリーンルーム, Optica, Tコイル, インダクティブピーキング手法, オプトエレクトロニクス研究センター, サウサンプトン大学, シリコン, シリコン光変調素子, ニオブ酸リチウム, フォトニックデバイス, 光信号送信デバイス, 学術
英国サウサンプトン大学の研究チームが、100Gbpsで動作する全シリコン製の光信号送信デバイスの開発に成功した。CMOS製造プロセスに適合しないニオブ酸リチウムなどを使用せず、シリコン光変調素子を新しい回路設計に基づいたCMOSドライバに集積したもので、従来デバイスの最高レベルの約2倍のデータレートを達成し、消費電力や製造コストの低減に成功している。研究成果が、『Optica』誌の2020年11月号に公開されている。
現代の情報通信システムおいて、光変調素子は、伝統的なデータ通信網だけでなく、マイクロ波フォトニクスやチップスケールのコンピュータネットワークでも重要な要素になっている。光変調素子としてニオブ酸リチウム薄膜を用いたものが開発されているが、製造過程が複雑で歩留まりが低いうえ、標準的なCMOS製造プロセスに適合しないという問題がある。一方で、プラズマ分散効果を活用したシリコン光変調素子は、単一のウェハーに多くのフォトニックデバイスを集積することができ、チップスケールの光電子工学システムに適している。だがシリコン光変調素子には帯域幅に限界があってデータレートを増大できないという問題がある。これに対処するため、インダクティブピーキング手法によるドライバアンプを用いて帯域幅の改善も可能だが、デバイス面積を微細化できず、消費電力が大きくなるという課題が生じる。
今回研究チームは、帯域幅を改善する効果のある方法として、“Tコイル”を用いたピーキングインダクタに着目し、これをCMOSドライバの回路設計に取り入れるとともに、PNドーピング水準を増大させたシリコン光変調素子と集積することにチャレンジした。サウサンプトン大学のCORNERSTONE研究用ファンドリーおよびMountbattenクリーンルームでデバイスを作成した結果、データレートとして従来デバイスの最高レベルの約2倍に相当する100Gbpsを達成するとともに、ドライバの電力効率として1bitあたり2.03×10-12Jを実現することに成功した。
研究チームを指導するオプトエレクトロニクス研究センターのGraham Reed教授は、「光電子工学分野において、フォトニクスとエレクトロニクスを単一の集積システムとして考える、新しい設計概念を導入した。そして、CMOS製造プロセスに適合し優れた製造性を有する、低消費電力と低製造コストの全シリコン製光信号送信デバイスを実証することができた。多くの研究者がシステムレベルで5~10%オーダーの改善を目指して苦労する中、我々の結果は100%に近い向上であり、新しい設計概念が成功したことを誇りに思う。将来的にデータ通信送受信システムの構築方法を変革することができる」と、その成果を説明している。
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