- 2021-2-1
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~深刻さを増す産業界の人手不足、注目を集める協働ロボット~
世界的に企業の人手不足が指摘されていますが、特に日本の製造業は「きつい」「汚い」「危険」の3K職場を嫌う若者の製造業離れもあって現場の高齢化が進み、大きな課題となっています。自動車業界や家電業界などを中心に、アジアや南米からの外国人労働者を確保するという流れもありましたが、新型コロナウイルス感染症の影響拡大により、それも困難になっています。
こうした背景から産業界において省人化、省力化が急務となっている今、大きく注目を集めているのが、人と一緒に作業することを目的とした「協働ロボット」です。今回の連載では、全3回の構成で協働ロボットの概要、歴史から、最新の技術トレンドまで、小型人協働ロボット「COBOTTAⓇ」を開発、販売する株式会社デンソーウェーブ FA・ロボット事業部 技術部 部長 佐藤哲也さんにお話を伺いました。
第1回目となる本記事では、「様々な業種で自動化を実現する「協働ロボット」とは?」と題し、協働ロボットの概要や登場した背景について、ご紹介します。(執筆:後藤銀河、撮影:編集部)
――まず初めに御社の事業内容について、簡単にご紹介いただけますか?
[佐藤氏]株式会社デンソーウェーブ(以下、デンソーウェーブ)では、QRコードに代表される自動認識装置、産業用ロボット、自動販売機や空調の設備の統合制御を行うプログラマブルコントローラーの3つの事業部があり、これらの機器やシステムの開発、製造を行っています。
――QRコードは、株式会社デンソーウェーブ(開発当時は株式会社デンソーの1事業部)が開発したもので、特許を取得されていますね。
[佐藤氏]そうです。2001年10月にデンソーから産業機器など非自動車系の開発組織を独立、分社化したのがデンソーウェーブで、現在のQRコードの特許権者は弊社になります。ロボット事業部も、元々はデンソーで自動車部品の組み立てを行う産業用ロボット部門から始まりました。
作業員の単純作業を置き換えるために産業ロボットを導入
[佐藤氏]デンソーの産業用ロボットは、危険な作業や悪環境での作業から社員を解放することを目的に開発をスタートさせ、1969年に試作1号機が完成しました。それがデンソーからトヨタG、中部地区、そして日本全国、世界の製造業へと広がっていきました。
――自動車用の産業用ロボット開発がルーツなのですね。どのような特徴があるのでしょうか?
[佐藤氏]自動車や自動車部品の製造ラインで使われている産業用ロボットは、工場の安定稼働を妨げることが無いよう、高い信頼性を備えていて、高速、高精度が特に優れたセールスポイントです。
――協働ロボットを開発したきっかけを教えてください。
[佐藤氏]元々産業用ロボットは、工場の工機部など設備のプロフェッショナルしか使わないようなものでした。自動車や大手部品メーカーには組み立てロボットなどを扱う設備のプロがいるわけですが、他の産業界、例えば食品業界では、そうした設備やロボットのプロがいません。そのような業界でもロボットを簡単に導入できるということで、協働ロボットが増えてきました。
ロボットのプロでなくても使える協働ロボット
[佐藤氏]最近では、「人協働」「Easy To Use」「Connectivity」の3つのキーワードがトレンドになっています。この背景には、世界的な規模での労働力不足や労働者の賃金高騰の抑制があり、ロボット化が欠かせないという事情があります。2018年の協働ロボットの世界市場規模は740億円ほどでしたが、近年の人手不足を背景に、2025年には実に1兆2560億円規模にまで急拡大すると言われています。
協働ロボットは、箱から取り出してすぐに使えるという利便性が好評で、爆発的に売れるようになりました。弊社のCOBOTTAは、重量約4kgの小型ロボットで、他社とは違う新しい市場を切り拓こうという志で開発したものです。
――協働ロボットは、使いやすい、導入しやすいというのが、ポイントなのですね。
[佐藤氏]お客様にとって、必要な時に簡単に設置、導入できるというのが大きなメリットです。現状の作業環境にそのまま導入できるよう、周辺機器と円滑に接続するためのプログラミング、PLCレス(Programmable Logic Controller:ロボットの動作を定義、記憶して自動制御を行うもの。シーケンサ)、AIなどもパッケージとして提供しています。
――産業用ロボットと協働ロボットの違いはどのようなところにあるのでしょうか?
[佐藤氏]鉄腕アトムなど、漫画に登場するロボットは、人に優しかったり、一緒に暮らしたりといったイメージで描かれていますが、工場で稼働している産業用ロボットは鉄の塊が高速で動いているため、作業者にとっては危険です。すぐ隣で働きたいかというと、とてもそうは思えません。事故が起きないよう、様々なセンサーを取り付け、「安全」なものとして作られていたとしても、それは「安心」とは違います。
――COBOTTAは重量約4kgの小型ロボットですが、人の作業を置き換えるのにはいいサイズ感ですね。
[佐藤氏]産業用ロボットのように、安全柵やケージの中に入れる必要がありませんから、そのまま人の隣で仕事ができるのが強みですね。お客様に訴求する上で、本当に安心して使っていただけるという点をファーストステップとして追及し、他社とは違う小型サイズで開発しました。コンセプトは4年前に発表していますが、まだ類似したロボットを出してくる競合メーカーはありません。
――COBOTTAの優れた点は、安全に加えて安心だということですね。
[佐藤氏]その証として、第三者認証機関であるテュフラインランドから、産業用ロボットの安全性に関する4つの国際規格に基づく安全認証を取得しました。つまりCOBOTTAは協働ロボットとしてトップクラスの安全水準を満たしているわけです。ロボットのメカやハードウェアは解析すれば真似できるかもしれませんが、どのようにしたら安全認証を取得できるのか、そのアイデアや知恵の部分はそう簡単には真似できません。例えベンチマークしようとしてバラバラに分解したとしても分からないでしょう。
自動車業界を中心に、様々な業種へ拡販する
――簡単かつ安全に使えるようにすることで、協働ロボットのマーケットもさらに広がっていくということですね。販売先としては、どの業界が多いのでしょうか?
[佐藤氏]従来の産業用ロボットの延長線上で、お客様としては自動車関連が多いです。ただ、最近では自動車関係以外の様々な業種から引き合いが増えてきていますね。先日の展示会でも、医薬品関係の方がすごく興味を持たれていました。医薬品の実験業務では、毎日ピペットでサンプルや試薬を同じ量ずつ取り分けて何百本という試験管に入れるという、ものすごく大変な単純作業を毎日やっているとのことで、このロボットを使ってどうにかならないか、という相談を受けています。
他にも高専や大学など教育関係もありますし、食品関係や研究機関から相談を受けることもありますが、「過酷な環境における実験システムに組み込んでも耐えられるか」など、さまざまな業界からすぐに答えられないような相談も多いですね。
――実はロボットSIerの方にお話を伺ったことがあり、コロナ禍の影響で自動化ニーズが非常に高まっているとのことでした。COBOTTAの販売実績にもコロナ禍の影響はみられますか?
[佐藤氏]元々自動車関係が7~8割を占めていましたから、今年は投資を控えたり、プロジェクトがなくなってしまったケースがありましたね。
ただ、これまで中心だった自動車以外の業界比率が大きくなっています。コロナ禍で人との接触を避けたいという用途や特に医療関係は、積極的に投資されているように見受けられます。自動車関係も、今年後半になって徐々に話が出始めているので、今後回復へと向かうのではないでしょうか。
――次回は、「協働ロボットに係わる技術とその進化」と題して、お話を伺います。
佐藤哲也(株式会社デンソーウェーブ FA・ロボット事業部 技術部 部長)
1992年日本電装に入社し、工機部ロボット技術課にて入社以来一貫してロボットの技術開発に従事。2001年に株式会社デンソーウェーブに出向し、2017年小型人協働ロボット「COBOTTA」を開発。2019年1月より現職。
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ライタープロフィール
後藤 銀河
アメショーの銀河(♂)をこよなく愛すライター兼編集者。エンジニアのバックグラウンドを生かし、国内外のニュース記事を中心に誰が読んでもわかりやすい文章を書けるよう、日々奮闘中。