目が見えない人に人工視覚をもたらす網膜インプラントを開発

© Alain Herzog 2021 EPFL

スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)は、目が見えない人たちの視覚を部分的に回復させる技術を開発してきた。最新の成果は、2021年3月5日付で『Communications Materials』に掲載されている。

目が見えない人を再び見えるようにすることは、科学者にとって常に最大の課題の1つだ。研究チームは、2015年からカメラ付きスマートグラスとマイクロコンピューターで作動する網膜インプラント「POLYRETINA」を開発してきた。

スマートグラスに内蔵されたカメラが、装着者の「視界」内の像をキャプチャし、そのデータをスマートグラスの片方のエンドピースに搭載されたマイクロコンピューターに送る。マイクロコンピューターは受信データを光信号に変換し、網膜インプラントの電極に送信する。この電極が網膜細胞を刺激して、装着者は簡略化された白黒画像を見ることができるようになり、人工的な視覚を得られる。

この簡略化された画像は、網膜細胞が刺激されたときに現れる光の点(ドット)から成る。開発された網膜インプラントには約1万500個の電極が埋め込まれており、その1つ1つが光のドットを発生させる。ただし、装着者は、その光のドットが表す形や物を見分けるために、たくさんの光のドットを解釈することを学ばなければならない。夜空の星を見て、特定の星座を認識できるように覚えていくのと同様だ。

再現された像を認識するのが難しくなりすぎないように、電極の数を適切にする必要があった。そこで、視覚の測定と同様に、視野と解像度という2つのパラメータを用いて開発したシステムを評価した。近接するドットを使用者が識別できるようにドットの間隔は十分に空ける必要があるが、再現される像の解像度を確保するには十分な数が必要だ。

2つの電極が網膜の同じ部分を刺激することがないようにするため、研究チームは網膜神経節細胞の活動記録を含む電気生理学的検査を行った。その結果、それぞれの電極が実際に網膜の異なる部分を活性化することが確認された。

次に、約1万500個の電極による光のドットで十分な解像度が得られるかを確認するために、使用者が網膜インプラントによって見ることになるものをシミュレートできるバーチャルリアリティープログラムを開発した。シミュレーションの結果、現在のドット数で、十分に機能することが示された。これ以上電極を増やしドット数を増やしても、鮮明さという点では使用者に益はないという。

また、解像度を一定にして視野角度を変えるテストも行った結果、システム能力をこれ以上向上させる必要はなく、臨床試験の準備が整ったことが証明された。

しかし、医学的承認を得るには長い時間がかかるため、人間の患者にPOLYRETINAを実際に移植することはまだできない。目が見えない人の視力回復が現実のものとなるまでには、もう少し時間がかかるだろう。

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