レーストラックメモリ技術にも――3Dプリントでナノスケール二重螺旋構造マグネットを作成

(上)作成されたナノスケール磁気二重螺旋構造マグネット、(下)実験的およびシミュレーションにより観察された高度に結合した磁壁構造

ケンブリッジ大学キャヴェンディッシュ研究所を中心とした研究チームが、先端的な3Dプリンティング技術を使って、強磁性コバルトのナノスケール二重螺旋(double helix)構造マグネットを作成し、今までに観察されたことのない磁壁構造を示すことを発見した。電荷のかわりに磁場を使って保存データの高速アクセスを可能にするレーストラックメモリ技術など、次世代の3次元磁気デバイスの発展に繋がると期待されるもので、研究成果が2021年12月20日の『Nature Nanotechnology』誌に公開されている。

磁気デバイスは、発電、データ保存やコンピューターなど、現代社会の多くの場面で重要な役割を果たしているが、コンピューター分野における2次元的構造の磁気的デバイスの性能は、その限界に近付いていると考えられている。次世代型記憶デバイスとして3次元構造の磁気デバイスに関する研究が追求され、3Dナノワイヤのアーキテクチャによる高密度化や、3次元構造の特異な磁気特性による新しい機能実現などが期待されている。

2008年にはIBMによって、磁気ナノワイヤの磁壁にデータを保存し、電流パルスによる磁壁の高速移動によって、書き込み読み出しの高速化が可能になるレーストラックメモリ技術が提案された。「だが、基本的な課題として3次元磁気システムを作成する手法を開発する必要があり、また磁化および磁場の両方に対する3次元化効果の理解が充分でないことから、このアイデアを実現するのは難しいのが現状」と、研究チームは説明する。

研究チームは、3次元磁気構造を実現する新しい方法の開発に注力し、集束電子ビーム蒸着法を用いた独自の3Dプリンティング技術の開発を進めてきた。その過程で生体DNAの二重螺旋(double helix)構造に着目し、ナノスケールの磁気的二重螺旋構造を3Dプリントで作成することにチャレンジした。その結果、強磁性コバルトを用い、螺旋直径が約80nm、螺旋ピッチが1μm強、二重螺旋間の距離が約70nmのナノスケール二重螺旋構造を作成することに成功した。

磁化の3次元的挙動を、現在、軟X線による断層撮影が唯一可能なスイスのポールシェーラー研究所の放射光施設の「PolLuxビームライン」により調べたところ、2次元的構造の場合と全く異なる磁化テクスチャを発生させることが確認された。隣り合う螺旋における1対の磁壁が、高度に結合して互いに引き付け合い“ロッキング”を生じているとともに、この結合の周囲に渦巻き状の磁場を生じることが明らかになった。

研究チームは、磁気的二重螺旋構造における強く結合した磁壁は、極めて高い安定性と移動性を持つ可能性があり、情報の高速キャリアとして期待できる」と語る。さらに、次世代コンピューター技術、磁気画像技術、スマート材料、磁場による粒子捕獲などに、新しい展開をもたらすと考えている。

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