- 2022-2-24
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- スピンデバイス, スピントロニクス, レアメタルフリー, レイリー波, 中国科学院大学, 慶應義塾大学, 研究, 磁気回転効果, 自由電子スピン, 表面弾性波, 音波
慶應義塾大学は2022年2月21日、同大学と中国科学院大学カブリ理論科学研究所の共同研究チームが、磁気回転効果を用いて磁性体から起電力を取り出す機構を理論的に発見したと発表した。スピンデバイスへの応用に繋がることが期待される。
力学的な回転運動を電子スピンに変換する磁気回転効果は、物質の磁気の起源がスピンであることを示す重要な効果として知られる。しかし、その効果は非常に微弱で、物質の磁気制御が求められるスピントロニクスデバイスへの応用は困難とされていた。
しかし、最近の研究において、固体表面を伝搬する音波(表面弾性波)を用いて結晶格子点を10億回/s以上の速度で回転させることで、磁気回転効果を用いたスピンの流れを生み出す方法が実証された。また、銅と強磁性体の複合材料に白金を接合させることで、磁気回転効果により生み出された交流スピン流を起電力へ変換させることにも成功している。
一方で、白金が希少であることに加えて、3種類の物質を複合させる複雑なデバイス構造が必要となるといったことが課題となっていた。
同研究グループは今回、強磁性金属の単膜という簡素なデバイス構造でも、磁気回転効果による起電力が生じることを理論的に発見した。
表面弾性波を強磁性金属に注入すると、格子の回転変形により強磁性金属内の自由電子スピンに磁気回転効果が生じる。また、強磁性体の磁気には磁気弾性効果(弾性変形に伴って向きが変化する効果)が生じ、磁気の波が励起される。
この磁気の波が自由電子スピンへ作用することで、起電力が生じる。冒頭の画像は一連の流れを示している。
同研究グループは、表面弾性波のレイリー波により生じる起電力を解析した。弾性波の進行方向や磁性体の膜厚方向へ起電力が発生することや、レイリー波の進行方向と磁性体の磁気の向きにおいて非相反性が生じることを発見している。
また、ニッケルを強磁性金属として使用した場合、実験で観測できるレベルの起電力が発生することも判明した。
今回の研究により、希少金属や複雑なデバイス構造を用いずに、磁気回転効果を幅広いスピンデバイスへ応用することが可能となった。ジュール熱を伴う電流と比較してエネルギー損失の少ない音波を用いており、磁気デバイスを高性能化、省電力化できる。また、貴金属を必要としないため、低コスト化にも寄与する。