- 2022-3-14
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- Nature Communications, Tony Skyrm, サイバーセキュリティー, スキルミオン, データセキュリティー, ピニングセンター(pinning centers), ブラウン大学, 学術, 磁気スキルミオン, 磁気モーメント
一部の2次元材料に生じる微小な磁気異常である「磁気スキルミオン」の大きさの変動を利用することにより、1秒間に数百万の乱数を生成できる可能性を持つ技術が開発された。この研究は米ブラウン大学によるもので、2022年2月7日付で『Nature Communications』に掲載された。
サイバーセキュリティー、ゲーム、科学的シミュレーションなど、世の中には真の乱数が必要とされているが、それらを発生させるのは想像以上に困難だ。コンピューターが生成する乱数のほとんどは、厳密な意味でのランダムではない。コンピューターは、最初の出発点であるシードに基づいて、アルゴリズムを使って乱数を生成するが、このようなアルゴリズムは決定論的だ。多くの場合、疑似乱数で十分だが、データセキュリティーのように第三者から推測できない数字を用いる利用法では、真の乱数が必要となる。
真の乱数を作り出す方法としては、自然界を利用することが多い。例えば、抵抗器を流れる電流のランダムな変動を、乱数生成に利用できる。また、量子力学に内在するランダム性、すなわち最小スケールの粒子の挙動を利用する技術もある。
そして、今回の研究によって、真の乱数発生源として磁気スキルミオンが新たに加わった。
磁気スキルミオンは、約60前に物理学者Tony Skyrm氏が提案した「スキルミオン」モデルを援用して理論的に予言され、その後、実験的な例が観測されたものだ。超薄型材料中の電子のスピンスピンは、それぞれの電子の小さな磁気モーメントとみなせる。2次元材料の中には、エネルギー状態が最も低い場合に、垂直磁気異方性という性質を持つものがある。これは、全ての電子スピンが膜に対して垂直方向を向いていることを意味する。これらの材料が電気や磁場で励起されると、系のエネルギーが上昇するにつれて、一部の電子スピンが反転する。このとき、周囲の電子のスピンがある程度乱され、反転した電子の周囲に磁気的な渦を形成する。これが磁気スキルミオンだ。
磁気スキルミオンは、一般に、直径約1μm以下の大きさで、一種の粒子のように振る舞い、材料中を左右に勢いよく動く。そして、一度形成されると、取り除くのが非常に難しい。磁気スキルミオンが大変強固なことから、その動きを利用してコンピューター処理を行ったり、データを保存したりする研究に関心が集まっている。
今回の研究では、材料の原子格子にわずかな欠損を生じさせる技術を用いて磁性薄膜を作製した。材料中に磁気スキルミオンが発生すると、「ピニングセンター(pinning centers)」と名付けられたこの欠損は、磁気スキルミオンを定位置にしっかりと固定し、その結果、磁気スキルミオンは通常のように動くことができなくなる。
今回、磁気スキルミオンが固定されるとその大きさが不規則に変動することが分かった。磁気スキルミオンの一部分があるピニングセンターに固定されると、磁気スキルミオンの残りの部分は行ったり来たりジャンプして、近くに存在するピニングセンター2つに巻きつく。ランダムに起こるこの変動を測定し、乱数の生成に利用することができる。
この磁気スキルミオンの大きさの変化は、異常ホール効果として知られる、材料全体に伝播する電圧によって測定される。この電圧は電子スピンの垂直成分に対して敏感であり、磁気スキルミオンの大きさが変化すると、簡単に測定できるほど電圧が変化する。そのランダムな電圧変化を利用して、乱数列を作り出すことができる。
研究チームは、このデバイスの欠損間隔を最適化することで、1秒間に1000万もの乱数を生成できると推定している。これは、真の乱数を生成する高効率な新手法を提供するものだ。また、この研究は、未解明だった単一スキルミオンのダイナミクスを明らかにするものでもあり、磁気スキルミオンの全体的な動きだけでなく局所的なダイナミクスに注目することで、磁気スキルミオンの力を活用する新しい方法も示したといえる。