新手法により、燃料電池触媒の酸素還元反応活性を2倍以上向上 量研、東大、原子力機構

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量子科学技術研究開発機構(量研)量子ビーム科学部門高崎量子応用研究所 プロジェクトリーダーの八巻徹也次長らの研究グループは2022年3月31日、東京大学、日本原子力研究開発機構とともに、イオンビーム照射した炭素材料に白金(Pt)を保持させる新手法により、固体高分子形燃料電池(PEFC)の触媒性能を2倍以上向上させることに成功したと発表した。今後、大幅にPEFCのPt使用量を削減する技術の確立を目指す。

カーボンニュートラルの実現には、水素エネルギーが切り札の一つとなっている。水素を使う燃料電池自動車(FCV)の普及の拡大には、搭載するPEFCのコスト低減が不可欠とされており、PEFC酸素極のORR触媒という材料がそのカギを握るとされている。現在のORR触媒は、高価なPtの微粒子を炭素材料に保持させた「Pt微粒子/炭素材料」を大量に使用しており、このPt使用量の削減には、ORR活性と耐久性の向上が課題になっている。

研究グループは今回、Pt微粒子の電子構造を、炭素材料の欠陥構造により強まったPtと炭素の相互作用を使って操作すれば、この課題を克服できると考えた。欠陥構造の量は、1cm2当たり1.0×10の14乗個から1.0×10の16乗個の間で、照射するアルゴンイオンの数を調整することで制御した。

電気化学的な手法である回転電極法により、欠陥構造を含むGC基板の上に堆積したPt微粒子(Pt/照射GC)のORR活性を評価したところ、活性を表すPt単位面積当たりの電流(ik)と電位との関係にて、GC基板の照射によって、同じ電位で比較したときのikが増大することがわかった。

たとえば、電位0.85Vでのikで比較すると、照射イオンの数(欠陥構造の増加)に伴って単純増加し、未照射基板上のPt微粒子(Pt/未照射GC)と比べると、最大約2.2倍にまで高まることが明らかになった。

電位0.85VにおけるikをPt/未照射GCと3つのPt/照射GCとで比較

次に、放射光を使ったX線吸収微細構造(XAFS)測定を実施。Pt/未照射GCと、Pt/照射GCのPtの化学状態を調べた結果、照射イオンの数(欠陥構造の導入と増加)に伴ってフォトンエネルギー2648eV付近の吸収ピークの強度が減少。Ptの酸化の抑制が確認された。ORR過程で形成される酸素含有の表面官能基の脱離を速めた結果、活性向上をもたらしたと考えられる。

Pt M3吸収端のXAFSスペクトル

さらに、Pt微粒子の酸化抑制がイオンビーム照射した炭素材料のどのような欠陥構造に起因するかを調べるため、密度汎関数理論(DFT)に基づく第一原理計算を実施したところ、Pt微粒子の電子構造を変化させた結果として、ORR活性が向上したと考えられる結果となった。このように、イオンビーム照射により強化されたPt-炭素相互作用に起因する新しいメカニズムにより、世界で初めて、高い活性を持つPEFC触媒の開発に成功した。

研究グループは、イオンビーム照射により、炭素材料に複数の原子空孔からなる欠陥構造を導入し、Pt微粒子をその表面に形成させる新しい方法で、ORR活性に優れたPEFC触媒を作製した。また、XAFS測定とDFT計算を用いて、欠陥構造がPtから炭素への電荷移動を促進し、界面相互作用を強化することで、Pt微粒子の酸化を抑制する新しい活性化メカニズムを実証した。

欠陥構造の導入による界面相互作用の強化は、ORR活性の向上に加え、使用に伴うPt微粒子の劣化抑制の効果も示唆している。研究グループはすでに、耐久性に関する研究にも着手している。

今後は、研究グループが掲げている目標「酸素還元反応(ORR)活性と耐久性を掛け合わせた性能で10倍向上」の達成とともに、炭素材料の基板から粉体をイオンビームの照射対象として、実触媒の製造プロセスの検討を進めていく。将来、同技術での実触媒の製造プロセスが実現すれば、PEFCのコスト低減という課題が解決され、カーボンニュートラル実現への貢献が期待できる。

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