コストは従来の100分の1以下――MIT、水の電気分解速度を高める安価な触媒材料「MHOF」を開発

Credits:Image: Courtesy of the researchers

MITを中心とする研究チームは、安価で豊富な成分からなる新しいタイプの触媒材料「金属水酸化物−有機構造(MHOF)」を開発した。この材料は、特定の化学プロセスのニーズに合わせて触媒の構造と組成を正確に調整でき、既存の高価な触媒の性能に匹敵する。研究成果は『Nature Materials』誌に2022年2月24日付で公開されている。

水分子を分解して酸素を発生させる電気化学反応は、燃料や化学物質、材料の電気化学的製造に共通する反応の一つであり、副産物としての水素生成などカーボンニュートラル燃料の製造に向けたさまざまなアプローチの核でもある。しかしこの反応は触媒を使わないと反応速度が遅いため追加のエネルギーが必要となり、全体の効率が悪くなる。また現在使用されている触媒は、レアメタルであるイリジウムのように希少で高価な材料を必要とするため、燃料生産の可能性は制限されているのが現状だ。

これまでニッケル−鉄水酸化物などの金属酸化物が、レアメタルの代替として検討されてきたが、これらの材料は特定プロセスのニーズに合わせて調整することが難しかった。今回研究チームは、金属酸化物を独自の方法でナノ構造化することによって、ニーズに合わせて調整できる方法を発見した。

手法としては、ガス貯蔵への応用などで注目されている金属−有機構造体(MOF)を応用している。MOFは、金属イオンと有機配位子(有機リンカー)が配位結合をして、多孔質なネットワークを形成している。研究チームは、MOFの金属イオンとして用いられている金属酸化物を金属水酸化物に置換することで、MHOFを開発した。有機リンカー鎖を隣り合わせていくことで、有機リンカーにより連結した水酸化金属シートが形成し、積層してより高い安定性を示すようになる。ナノ構造のパターニングが正確にコントロールできるようになり、金属の電子特性を正確に制御できるほか、安定性や耐久性の向上につながるという。

今回開発した触媒はニッケルや鉄を主成分としているため、詳細な計算はしていないものの、製造コストは既存の触媒と比べて少なくとも100分の1に抑えられると考えられている。またMHOFは非常に薄いシート状にできるため、他の材料にコーティングして使用することで、さらなるコスト削減も可能だ。

また、水の分解を触媒する活性部位を調整することで、少ないエネルギー投入で水素を製造できるスペースも作れる。化合物中のニッケルを別の金属にするだけで5倍以上の調整能力が発揮できることもわかっており、将来的に多くの関連したプロセスでの応用も期待される。

今回の研究は実験室の小規模な試験装置で行われたものだが、研究チームは商業利用可能なスケールへの拡大に取り組んでいる。しかし、実現までには数年以上かかる可能性があるという。

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