- 2024-5-29
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- キュリー温度, ネオジム, ネオジム磁石, フェライト磁石, レアアース, 磁性体, 磁気異方性, 電気自動車, 飽和磁化
ネオジム磁石とは?
ネオジム磁石とは、レアアースの一種であるネオジムと、鉄やホウ素などを原料に使った磁石のことで、現在使用されている磁石の中で最も強力なものとされています。鉄の酸化物を主な原料とするフェライト磁石と比較すると、約10倍の強さを持ちます。
このネオジム磁石は、1982年に日本で開発されたもので、その有効性から世界中に普及しました。その後、特許の有効期間が過ぎて、複数の国やメーカーで製造されるようになりましたが、日本が最初に開発/製造したこともあり、優れた技術を有していることに違いありません。原料となるネオジムは、主に中国から輸入したものが使われていますが、需要が増加傾向で、価格も上昇を続ける傾向が見られます。
ネオジム磁石の磁力の強さと仕組み
磁石の磁力の強さを決めるのが、飽和磁化と磁気異方性です。
飽和磁化とは、磁性体を磁化する時にそれ以上は磁化できない状態のことを指し、磁石のエネルギーは飽和磁化を2乗したものに比例します。磁気異方性とは、磁性体内の結晶の磁化のしやすい/しにくい方向のことで、磁石の磁力が強くなるためには、磁化のしやすい方向が一つの方向になっていることが望ましいのです。この飽和磁化と磁気異方性に関して有利な特性を持つことが、磁石の磁力を強力なものにする決め手となります。
ネオジム磁石の場合は、高い飽和磁化を持つだけではなく、磁気異方性も優れた性質を持っているため、他の磁石よりも強い磁力を持っています。
ネオジム磁石と他の磁石との違い
磁石はネオジム磁石以外に、フェライト磁石やアルニコ磁石、サマリウムコバルト磁石などがあります。ネオジム磁石は他の磁石よりも磁力が強く、繰り返しの吸着にも耐えられる高い保磁力を持ちます。硬度もアルニコ磁石に次ぐ高さです。
しかし、ネオジム磁石は他の磁石に比べて耐食性がなく、錆びやすい特徴があるため、一般的にニッケルメッキなどの表面処理が必要です。また、耐熱性が低く、高温環境では磁力が弱くなります。
ネオジム磁石のメリットは?
ネオジム磁石の最大のメリットは、他の磁石よりも圧倒的に強い磁力を持つことです。実際に他の磁石と比較してみると、その磁力の強さを実感できるでしょう。他の磁石では不可能なことでも、ネオジム磁石の強力な磁力を使えば、手軽に実現することができます。その結果、磁石の分野では最も普及しているものの一つとなり、日常生活や産業分野などで欠かせない存在となりました。小ロットから製造可能であるというメリットもあります。
さらに、ネオジム磁石は機械的な強度も優れているというメリットも存在します。機械的な強度があるため、簡単に壊れることなく長持ちするので、日用品の部品としてだけではなく、信頼性が要求される産業用の製品にも使用されています。マグネットの基本的な性能として、磁力が第一に注目されますが、一定以上の機械的な強度を持っていないと、その性能を長期間維持できず、安心して使用することはできません。
価格面でも大きなメリットを提供してくれるのがネオジム磁石です。ネオジムはレアアースであるため、価格も高くなりがちだと思う人もいるでしょう。しかし、安価な鉄を原料として使用できるため、全体的な価格を抑えることができます。そのため、高価格の製品だけではなく、安価な製品にも手軽に使用することが可能です。100円ショップでも、ネオジム磁石を使った商品を見つけることができるでしょう。
このように、ネオジム磁石は強力な磁力を持つことに加えて、いくつもの使いやすい特性を備えているのです。
ネオジム磁石のデメリットは?
いくつものメリットを備えるネオジム磁石ですが、他の磁石よりも熱に弱いというデメリットがあります。磁石は温度が上昇すると磁力を失ってしまいますが、この磁力を失う温度をキュリー温度と呼びます。マグネットを使う際は、このキュリー温度に注意しなければなりませんが、ネオジム磁石の場合はキュリー温度が300℃前後です。300℃と聞くと随分と高い温度だと感じるかもしれませんが、サマリウムコバルト磁石などのキュリー温度は、この倍程度ですから、磁石の中では熱に弱い部類になります。
また、ネオジム磁石は錆びやすいという弱点もあります。錆びると磁力が低下する原因になるため、磁石としては大きな問題です。この問題を克服するために、磁石の表面を塗装やめっきで覆うようにしていますので、時間と共に表面の塗装やめっきが剥がれてきた時は、何らかの方法でメンテナンスする必要があります。
さらに、ネオジム磁石の強力な磁力が、思わぬ事故を起こす可能性もあります。他の電子機器が誤動作する原因となったり、磁気カードのデータが消去されてしまったりするかもしれません。医療機器など、誤動作すると大きな問題になる機器が使われている場所では、特に注意を要します。ペースメーカーを使っている人は、正常に作動しなくなることもあるので、ネオジウム磁石を扱わないようにしましょう。ネオジム磁石を使用する時は、周囲に問題となるようなものがないことを十分に確認する必要があります。状況によっては、ネオジム磁石の使用を控えて、他の磁石を使わざるを得ないこともあるでしょう。
小型でありながら強力な力を持つため、取り扱い中にケガをする可能性がある点や、子どもや動物が誤飲してしまう可能性についても、注意しなくてはなりません。
ネオジム磁石の使用用途
強力な磁力を持つネオジム磁石は、その性能を活かし車載用のモーターなどの工業用として普及し始めたとされています。この先、電気自動車の本格的な導入が進むと見込まれていますので、自動車関連分野での需要が高まると予測されています。その他にも、製造工程で鉄粉を除去する機器や、強い磁力が必要となる医療機器などにも使われ、欠かせない部品の一つとなりました。サイズを大きくして、磁力をより強力なものにすることも可能ですが、サイズが大きくなる程、取り扱いに注意が必要となります。
また、小さな状態でも強力な磁力を有することから、スマートフォンやハードディスクなどの精密機器の内部に組み込まれて、重要な役割を果たすようになりました。他の磁石では、小さなサイズになると十分な磁力を持たないため、ネオジム磁石ならではの用途と言えるでしょう。マグネットの特性によって性能が左右される音響機器などにも、ネオジム磁石が使われて、音質の向上に役立っています。
こうして、ネオジム磁石の用途が広がると共に、手軽に使える日用品にも使用されることが増えました。安価に製作できるというメリットを活かして、荷物を整理するための壁掛けフックや掲示板など低価格の商品にも使われています。家庭内の磁石を用いた商品を調べてみれば、ネオジム磁石が見つかるのではないでしょうか。ネオジム磁石が見つかった時は、熱に弱く錆びやすいという点に気を付けなくてはなりません。
使用する際の注意点
ネオジム磁石は数mmの小型製品が多いため、誤飲に注意が必要です。特に複数個のネオジム磁石を誤飲した場合、消化管を隔てて吸着する可能性があります。そのまま消化管に穴が開く危険性もあるため、誤飲したら直ちに医師の診察を受けなければなりません。
ネオジム磁石は子どもやペットが触れないところに保管し、ネオジム磁石が内蔵されている製品を使う際は、破損して磁石が飛び出すおそれがないか確認するようにしましょう。
また、ネオジム磁石は磁力が非常に強いため、電子機器の誤作動を引き起こす可能性があります。特にペースメーカーを装着している人は、ネオジム磁石を身体に近づけないように注意が必要です。
まとめ
ネオジム磁石は、現在販売されている中で最も強力な磁石とされています。そのため、他の磁石ではできないようなことでも、実現することができますが、メリットとデメリットを十分に理解して使用しなくてはなりません。強力な磁力を持つために、思わぬうちに周囲に悪い影響を及ぼすこともありますから、必要以上のスペックを求めずに、適切なものを用いることが大切です。優れた特性を持つネオジム磁石を、有効に活用するようにしましょう。
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