鳥取大学工学部の坂口裕樹教授らの研究グループは2022年12月21日、戸田工業と共同で、戸田工業が独自に開発した酸化鉄(Fe2O3)微粒子に対してアンチモン(Sb)を添加すると、ナトリウムイオン電池の負極として優れた特性が得られることを発表した。電子伝導性の向上と凝集の抑制に成功し、大幅に負極性能が向上している。
軽量で、多くのエネルギーを貯蔵できるリチウムイオン電池は、携帯用電子機器の電源として広く利用されてきた。今後、さらなる大型化、高性能化が期待されているが、Li資源とコストの問題が懸念されている。
一方、海水中にほぼ無尽蔵に存在するNaの資源は、安く大量に入手できることから、大型の定置用電源にふさわしい安価な蓄電池としてナトリウムイオン電池が期待されている。そして、酸化鉄は安価で資源豊富な素材として広く利用されている。
研究では、Naを用いたナトリウムイオン電池の負極に、戸田工業が製造した超微細酸化鉄粒子を使用。作製した超微細Fe2O3粒子は、負極に適用した際に高い充放電容量が得られた。
しかし、負極にFe2O3のみを用いても、電子伝導性が低く、充放電を繰り返すと、負極中でFe2O3の粒子が凝集することで電気的孤立と電極の崩壊を招く。このため、電極としての耐久性が低い(充放電サイクル寿命が短い)ことが問題点になる。そこで研究では、Sb、Sn、Bi、In、Zn、Alという性質の異なる種々の金属をFe2O3と複合化。集電性の向上とFe2O3粒子の凝集の抑制によって問題の解決に取り組んだ。
ナトリウムイオン電池セルを試作し、種々の金属と複合化させたFe2O3からなる電極の充放電試験評価を実施したところ、負極性能は使用する金属の種類によって顕著に異なった。
負極に超微細Fe2O3粒子のみを用いた場合、乏しい電子伝導性と粒子の凝集により、充電-放電のサイクルが進むと急激に容量が失われることが確認された。この問題は、Al、もしくはZnと複合化させても改善しなかった。一方、Naと合金化反応を示すことで、その伝導経路として機能するSnやBiを用いた場合は、容量の衰退が軽減された。
同じくNaとの合金化反応を示すSbをFe2O3と複合化させた電極は、初期サイクルからの容量衰退が大幅に改善。優れたサイクル安定性を発揮した。この電極の充放電後の断面構造を調べると、Sbの添加で容量衰退の要因となる亀裂(クラック)の発生がより抑制されていた。
これらのことから、Fe2O3粒子の間に介在するSbが、充放電時の体積変化に追従して膨張-収縮することで凝集を防ぎ、電極構造の崩壊を抑制したと考えられる。
負極材料に酸化鉄を用いた場合、電子伝導性の低さや、充放電にともなう凝集が課題となっていたが、研究ではこの課題を解決する鍵が、ある種の金属との複合化であることがわかり、超微細酸化鉄の高容量を効果的に引き出せることを発見した。
この知見は、液体の電解質を用いたリチウムイオン電池やナトリウムイオン電池に加え、固体電解質を用いた電池にも有用であり、次世代蓄電池の材料開発に貢献することが期待される。