- 2023-1-30
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写真右から、Nature 株式会社 創業者 塩出 晴海氏。同社ソフトウェアエンジニア 北原 壮氏
~2050年カーボンニュートラルに向けたクリーンテックの取り組み~
今回の連載は、家庭向けスマートリモコンやエネルギーマネジメントデバイスをコアに、スマートグリッド向けサービスの開発に取り組むNature株式会社に、太陽光発電を中心としたクリーンテックを取り巻く状況や今後の展望について、お話を伺います。
連載第1回「クリーンテック業界を取り巻く、大きな二つのトレンドとは」では、Natureの製品や家庭でのエネルギーマネジメント、業界を取り巻く二つのトレンドについてお話を伺い、第2回では「今起こりつつあるエネルギー革命とは」として、太陽光発電を中心とした再生可能エネルギーの変遷について、ご紹介いただきました。
最終回は、「再エネへのシフトがスマートグリッドへの進化を促す」と題して、家庭における電力のデマンドマネジメントの具体例と、再エネの普及によって電力網が自律分散型のスマートグリッドへと変化していくという将来像について、そして「クリーンテックに携わるエンジニアに求められること」についても、お話いただきます。(執筆:後藤 銀河 撮影:編集部)
プロフィール
Nature株式会社 創業者 塩出 晴海氏
13才の頃にインベーダーゲームを自作、2008年にスウェーデン王立工科大学でComputer Scienceの修士課程を修了、その後3カ月間洋上で生活。三井物産に入社し、途上国での電力事業投資・開発等を経験。2016年ハーバード・ビジネス・スクールでMBA課程を修了。ハーバード大在学中にNatureを創業。
Nature株式会社 ソフトウェアエンジニア 北原 壮氏
2012年に慶応義塾大学大学院(SFC)の政策メディア研究科を卒業。学生時代から面白法人カヤックにて、Lobiなどの多数のサービス・アプリを開発。Make It Real を経てNatureに参画。ソフトウェア開発全般を手掛ける。
――再生可能エネルギーを利用する上で、電力の需要側でのエネルギーマネジメントが不可欠だというお話しがありました。テクニカルな面でどのような取り組みになるのでしょうか?
[塩出氏]家庭におけるエネルギーマネジメントを考えたときに重要になるのは、電力消費量の多い機器の使い方と電気を貯蔵するリソースの確保です。例えば、家庭の中で電力消費量が最も大きいのはエアコンです。特に夏場はピーク電力の5割以上をエアコンで消費しているので、エアコンの運転をどうマネジメントするのかがとても重要になります。
もう一つの電気を貯蔵するリソースという点ですが、家庭におけるリソースの主流は電気式給湯器になります。ヒートポンプ給湯機「エコキュート」は、2020年時点で700万台以上が導入されており、それなりの規模感になりつつあります。エコキュートはヒートポンプを使って外気の熱を取り込み、お湯を沸かしてタンクに貯めるという仕組みですが、この沸き上げを行うタイミングの制御が重要になります。つまり、電力需要のピークを外して沸き上げることで、電気をお湯として貯めておくことができ、電力需要のピークカットに繋がります。
これらに加えて、今後自家用車として伸びてくる電気自動車(EV)に充電する電気を効率よく使うことも、エネルギーマネジメントのポイントになるでしょう。最近のEVは60kWhクラスのバッテリーを搭載していますが、一般的な日本家庭の電気使用量の平均値は、1カ月で約300kWhです。つまり家庭で使用する電力の約一週間分に相当する電気が、EVに貯められるということです。このEVの電気を効率よく使うために、V2H(Vehicle to Home)やグリッドへの供給など、さまざまな方法が検討されています。

家庭におけるエネルギーマネジメントが重要。画像提供:Nature
電気の料金体系は市場価格連動型へ
[塩出氏]次に、今後の電力の料金体系についてですが、「時間帯によって電気の料金を変える必要がある」というトレンドがあります。実際に、高圧を使う工場や大規模需要家向けに、電力会社は市場価格に連動したプランに切り替えており、将来的には一般消費者向けの電気料金にも適用されていくでしょう。例えばスペインでは国民の5割近くが市場価格に連動したダイナミックプライシング(※)を選択しており、私たちもこれが今後の世の中の流れになるだろうと見ています。
(※)商品やサービスの価格を需要と供給の状況に合わせて変動させる価格戦略
電力会社と取り組むデマンドマネジメントプロジェクトがスタート
[塩出氏]弊社は、「Nature Remo」、「Nature Remo E」といった需要側向けの製品に加え、供給側である電力小売事業者向けに、Nature Remoの自動で家電を制御し、電力需要を抑制する「Nature Smart Eco Mode」を活用した「デマンドレスポンス支援サービス」の提供を始めました。
具体的な事例として、夏に引き続き、今冬も関西電力様の実施するデマンドレスポンスプログラム「冬の節電プロジェクト2022」にサービス提供をしております。

電力会社が指定する時間帯にエアコンの温度設定を自動調整する「デマンドレスポンス」サービスを提供する。 画像提供:Nature
[塩出氏]関西電力様の取り組みにおいては、関西電力が指定する電力需要がひっ迫すると予想されるタイミングで、「Nature Smart Eco Mode」をオンにしておくと、エアコンの温度を2℃自動で調整し、エアコンの消費電力を下げることができます。需要をコントロールするといっても、お客様が不快に感じないよう、いかに快適に過ごせるよう自動的に制御するのか、というところも今後の課題だと思います。
電力網は自律分散型のスマートグリッドにシフトしていく
――デマンドコントロールが現実のものとなりつつある今、スマートグリッドの今後をどのようにお考えでしょうか。
[塩出氏]需要側の関わり方がよりアクティブになってくると、次は発電所から電気を買うのではなく、需要家同士で電気を融通した方がよい、という考え方が出てくるでしょう。今は電力会社対コンシューマーという構図ですが、例えば太陽光パネルをたくさん持って発電している人がいたとして、近所の家はそこから電気を買う方が、電力会社から買うよりも距離的に近いし、合理的です。電気を近距離に送ることの経済的メリットが出てくれば、地産地消のモデルにシフトして行く。これが、今後の重要な流れだと思います。
ただ、現状は距離が遠くても近くても料金が同じなので、世の中の流れに沿って、仕組みの面を変えていく必要があると思います。何を軸とするかはまだ議論があると思いますが、より分散した電源リソースにシフトしていくと思います。
――需要家同士、家庭レベルで電力の売買が行われるようになるだろうと。
[塩出氏]もちろん諸説ありますが、私は個人同士が電気を売買する形にシフトしていくと思っています。グローバルでは、5年先にはかなり状況が変化すると見ていて、日本でも2030年くらいに変化の兆しが見えるのではないでしょうか。近い将来再生可能エネルギーを中心としたスマートグリッドが実現されることを見越して、弊社も取り組みを進めています。
一段高い視点から局面を俯瞰できるエンジニアに
——ありがとうございます。では、クリーンテックの領域に携わるエンジニアが知っておくべき技術とは、どのようなところになるのでしょうか。
[塩出氏]50年後100年後は、今と全く違う世の中になっているのではないかと私は思っています。前回申し上げたエネルギー革命が起きつつある中では、世の中の仕組み自体を変えていく必要が出てくるでしょう。例えば、電力会社側からデマンドコントロールして電力需要を吸収するような仕組みも、そのひとつだと思います。ですから、この領域で製品開発に携わるエンジニアであれば、エネルギーに関する知識や世の中の動向が今どういう局面を迎えていて、どう変わっていこうとしているのかを理解していることや頭の片隅に置いておくことが、とても大切だと思います。
[北原氏]私は、5年ほど前にNatureに参加し、ソフトウェアエンジニアという肩書で、製品のソフトウェア全般を見ています。前職はエネルギー業界ではなかったため、Natureに入ってからエネルギー関連の知識を吸収していきました。バックグラウンドはWeb界のソフトウェアエンジニアですが、Nature Remoのスマートホーム側で、IoTの技術に携わりつつ、Nature Remo Eのエネルギー関連も対応しています。
NatureにはWeb技術をバックグラウンドとするエンジニアが多く、我々の製品もブラウザで使用されている技術でほとんどが動いています。ですから、再生可能エネルギーやエネルギーマネジメントの領域であっても、「クリーンテック専門の技術」だけで動いているわけではなく、Web技術など様々なIT関連の技術を合わせたものとなっています。大切なのは、クリーンテックの領域に関わりたいという想いであり、それがあれば、IT関連の技術を活かして十分に活躍できると思います。
取材協力
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ライタープロフィール
後藤 銀河
アメショーの銀河(♂)をこよなく愛すライター兼編集者。エンジニアのバックグラウンドを生かし、国内外のニュース記事を中心に誰が読んでもわかりやすい文章を書けるよう、日々奮闘中。