音波を使った水電気分解でグリーン水素生産を従来より高める新手法――製造時に必要なエネルギーを25%以上削減の可能性も

Credit: RMIT University

電気分解の際に、高周波のハイブリッド音波を利用して水分子を分裂させ、通常の電気分解技術に比べて低エネルギーでより速く水素を放出させる、環境に優しい新手法が開発された。この研究は豪ロイヤルメルボルン工科大学(RMIT大学)と豪メルボルン大学によるもので、その詳細は2022年12月4日付で『Advanced Energy Materials』に掲載された。

電気分解は2つの電極を使って電気を流すが、水中に電気を流すと水分子は酸素と水素に分解され、水中で気泡となって現れる。再生可能エネルギーによる電気を使って水を電気分解して製造する水素は「グリーン水素」と呼ばれるが、高エネルギーを必要とするため、その製造量は世界全体のほんの一部に過ぎない。現在は天然ガスを分解して水素のほとんどを製造しており、その製造過程で発生する温室効果ガスは大気中に放出されるか、回収されて長期貯留されている。

水電気分解の主な課題の1つは、使用される電極材料がプラチナやイリジウムなど高価な金属であることだ。また、電気分解に使用する電極に水素と酸素の気泡が蓄積することも問題だった。気泡はガス層を形成して電極の活性を最小限に抑えてしまい、電極の性能を著しく低下させる。

今回の研究では、電気分解時に音波を用いることでこれらの問題が解決できた。まず、音波を使うことで、腐食性電解液や、プラチナやイリジウムのような高価な電極を使う必要がなくなった。水は腐食性電解液ではないため、銀のような安価な電極材料を使うことができる。

さらに、音波による高周波振動は電極上に水素と酸素の気泡が蓄積するのを抑え、気泡を速やかに除去できたので、電極の導電性と安定性を大きく向上させることができた。

また、実験の一環で、電気出力から音波を出した場合と出さない場合で比較した結果、一定の入力電圧に対して、音波を用いた場合の電気分解での電流密度は音波なしの場合より約14倍増加した。

この手法により変換効率を向上させ、必要なエネルギーの約27%節約につながる可能性があるという。

研究チームは、この研究成果について、輸送分野などに安価な水素燃料を豊富に供給する有望な方法であり、二酸化炭素排出量を抜本的に削減し、気候変動との戦いに役立つ可能性があるとしている。また、この新しい音響プラットフォームは、水素製造以外の他の用途にも使用できると考えられ、特に電極上に気泡が蓄積することが課題となっていた用途に役立つ可能性がある。

この新技術を保護するため、オーストラリアで特許の仮出願がされている。研究チームは、今後、既存の電解槽にこの音波による新しい音波の技術を組み込み、研究の規模を拡大するという課題に取り組む予定だ。

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