熱の流出入を高精度に計測できる、薄膜型フレキシブル熱流センサを開発 東京大学と日東電工

東京大学は2023年7月24日、同大学大学院理学系研究科と日東電工との共同研究グループが、熱の流出入を高精度に計測できる薄膜型フレキシブル熱流センサを開発したと発表した。

電子機器の熱制御には、従来温度センサを用いることが多かったが、近年は熱流センサが注目を集めている。熱流センサは、熱の移動量(熱流)を測定するものだ。

熱の吸収/発散や物体の深部温度など、通常の温度計では観測が難しい熱特性を定量化できる。熱流センサを用いて熱の発生源や伝搬経路を特定することで、効率的な熱マネジメントが可能となる。

熱流センサは、主に面直熱流(測定対象の表面での熱の流出入)を測定対象とする。一方で、実環境では面直熱流に加えて面内にも熱流が流れるため、面直熱流のみに由来する信号を選択的に計測できるセンサが必要となる。

しかし、熱流の面内成分に由来する信号の影響を受けない薄膜型熱流センサは、これまで開発されていなかった。

今回開発した薄膜型熱流センサには、異常ネルンスト効果を示す磁性金属と電極材料を用いた。

異常ネルンスト効果とは、磁気的な性質を用いて熱を電気に変換する熱電効果を指すもの。量産に適した薄膜関連技術を応用できるため、安価かつ大量な大面積/フレキシブルな熱流センサの製造が可能となる。

(a)面直熱流がセンサを通過した際に異常ネルンスト効果が発現し、センサが応答
(b)温度ムラ(面内方向の熱流)に対しては異常ネルンストが発現せず、センサが応答しない
(c)面直熱流と温度ムラが同時に生じる実環境では、面直熱流のみを選択的に検出することが必要

研究の結果、面内熱流に由来する信号は磁性金属と電極材料が持つゼーベック係数の差に比例しており、この差を0とすることで打ち消し可能であることが判明した。

そこで、磁性金属と同様のゼーベック係数を有する電極を採用した熱流センサを構築した。ヒーターを用いて面直/面内方向の熱流を発生させ、銅(Cu)を電極に用いたゼーベック効果が打ち消されていないセンサとセンサ特性を比較している。

結果として、比較用のセンサでは、面直熱流由来の出力信号に対して温度ムラによるオフセット信号が大きく、面直熱流の直接測定が困難となった。一方、今回開発したセンサでは、出力信号に対してオフセット信号が十分に小さく、出力信号を読み取ることで面直熱流を直接計測できた。

(a)オフセット信号の打ち消し構造を持たない従来型センサ
(b)今回開発した熱流センサ

同研究チームは今回、量産に適したRoll-to-Rollスパッタ法で磁性金属と電極をPET基板上に形成し、センサを作製した。異常ネルンスト効果を採用したデバイスの特長である低コスト化、大面積化、フレキシブル化などを活かすことが可能となっている。

(a)PET基板上に作製した熱流センサ
(b)今回の研究のコンセプトを示す模式図

フレキシブル性については、センサを屈曲させた状態で熱流を計測し、センサ感度が変化しないことを確認した。

今回開発した手法は、トポロジカル磁性体などの新規磁気熱電材料にも応用可能。また、薄膜型熱流センサの用途として、熱流の可視化に加えてバッテリーの異常発熱検知や人体の深部温度測定、自動化が進む工作機器の故障予知などへの展開も見込まれる。

今回の手法を活用することで、さまざまな用途における耐久性などの要件を満たした実用的な磁気熱流センサの開発が期待される。

関連情報

熱の流出入を高精度に計測可能なフレキシブルセンサを開発 – 東京大学 大学院理学系研究科・理学部

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