- 2023-10-4
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- DNP, EV(電気自動車), 全固体電池, 固体電解質, 多硫化リチウム, 次世代電池, 液相合成, 研究, 硫化物, 硫化物固体電解質材料, 豊橋技術科学大学
豊橋技術科学大学は2023年10月3日、同大学の電気・電子情報工学専攻の研究グループが、硫化物固体電解質材料を短時間で合成できる手法を開発したと発表した。
全固体電池は、安全性や出力特性に優れることから、電気自動車(EV)用の次世代電池候補として期待されている。実用化に向けては、イオン伝導性や可塑性に優れる硫化物固体電解質の材料開発が進められている。
しかし、硫化物固体電解質は大気中で不安定であり、合成プロセスで雰囲気制御を要する。このため、低コストな量産向けの液相合成手法の確立が求められていた。また、全固体電池向けの固体電解質としては、Li10GeP2S12がイオン伝導性の高さから有望視されている。しかし、既存の液相合成では、3時間以上と長い反応時間を要することが課題となっていた。
同研究グループは今回、過剰の硫黄やACN-THF-EtOH混合溶媒を用いることで、短時間でのLi10GeP2S12の合成に成功した。
紫外可視(UV-Vis)分光法に用いて前駆体溶液の状態を調べたところ、S42-、S62-、S3・-といった多硫化リチウムが生じていることが判明している。
同研究グループはこのことから、以下のプロセスで反応が進行したものと推測した。
- Liイオンが高極性溶媒のEtOH(エタノール)と強く配位し、多硫化物イオンがLiイオンから遮蔽されることで、高い反応性を有するS3・-ラジカルアニオンが安定化
- 生じたS3・-がP2S5やGeS2を攻撃することで、P2S5のケージ構造が開裂
- GeS2の結合が切断されて反応が進行
- 生じたチオリン酸リチウムは、高い溶解性を有するACN(アセトニトリル)とTHF(テトラヒドロフラン)の混合溶媒中に溶解するため、短時間で均一な前駆体溶液が得られた
今回の手法では、反応過程でボールミリングや高エネルギー処理が不要なことから、総合成時間7.5時間でのLi10GeP2S12の調製に成功した。生成したLi10GeP2S12は、25℃で1.6mS cm-1と高いイオン伝導性を示している。
同研究グループは今後、Li10GeP2S12以外の高イオン伝導性硫化物固体電解質の合成にも取り組む。