クリプトン原子をカーボンナノチューブ内に閉じ込めて原子同士が結合する様子をリアルタイムで観察可能に

英ノッティンガム大学を中心とした研究チームは、貴ガス(希ガス)であるクリプトン(Kr)の原子をカーボンナノチューブ内に閉じ込めて1次元の気体を形成することに成功した。さらに、最先端の透過電子顕微鏡(TEM)法を用いて、Kr原子同士が結合してペアとなった状態を捉えた。この研究は2024年1月22日付で『ACS Nano』に掲載された。

原子の動きは、温度、圧力、流体の流れ、化学反応などの基本的な現象に大きな影響を与える。従来の分光法は原子の大集団の動きを分析でき、平均データを使って原子スケールの現象を説明するが、個々の原子が特定の時点で何をしているのかは分からない。

原子は0.1~0.4nmと非常に小さく、気相では秒速約400mと空気中の音速を超える超高速で移動できる。そのため、活動中の原子を直接撮像することは非常に難しく、原子をリアルタイムで連続的に視覚化することは、依然として最も重要な科学的課題の1つである。

今回の研究はその課題に挑戦したもので、英ノッティンガム大学のAndrei Khlobystov教授は、「カーボンナノチューブを用いることで、原子を捕捉して正確に位置決めし、単原子レベルでリアルタイムに観察することが可能になる。例えば、今回の研究でわれわれは貴ガスであるKr原子の捕捉に成功した。Krは原子番号が大きいので、より軽い元素に比べてTEMで観察しやすい。これにより、Kr原子の位置を動く点として追跡できるようになった」と述べた。

研究チームは、まず、炭素原子60個から成るサッカーボールのような形状の分子であるバックミンスターフラーレンを利用して、カーボンナノチューブで構成した「ナノ試験管」の中に単一のKr原子を輸送した。ナノ試験管の直径は、人間の髪の毛の幅の50万分の1という細さだ。

そして、色収差と球面収差を補正する最新のSALVE(Sub-Angstrom Low-Voltage Electron) TEMを使って、Kr原子が結合してペアを形成するプロセスを観察した。この原子ペアは、分子や原子の世界を支配するファンデルワールス力によって結び付いている。1回のTEM実験で、Kr原子間の原子間結合とその動的な気体様挙動の両方を観察できる。

Kr原子は、1200℃で加熱するか電子ビームを照射して、炭素ケージを融合させることでフラーレンの空洞から放出させることができる。フラーレン分子から放出されたKr原子は、非常に狭いナノチューブのチャネルに沿って1次元にしか移動できない。そして、Kr原子の列の原子はすれ違うことができず、渋滞中の車のように減速せざるを得ない。

こうして、研究チームは、孤立したKr原子が1次元気体に遷移する重要な段階を捉えたが、TEMでは単一原子のコントラストが消失した。しかし、走査型TEM(STEM)イメージングと電子エネルギー損失分光法(EELS)により、原子の化学的特徴のマッピングを通じて、各ナノチューブ内の原子の動きを追跡することができた。

この研究により、研究チームは2つの原子間のファンデルワールス距離を実空間で見ることができた。これは化学と物理学の分野における重要な発展であり、原子や分子の仕組みをより深く理解するのに役立つ可能性があるという。

研究チームは、今後、電子顕微鏡を使って1次元系における温度制御された相転移や化学反応を撮像する予定で、物質の通常とは異なる状態での秘密を解き明かそうとしている。

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