上智大学は2024年3月5日、同大学理工学部機能創造理工学科の研究チームが、エンジンの燃焼効率に影響するシリンダー内の旋回流が発生する条件を特定したと発表した。アンモニア燃料を用いたディーゼルエンジンの改良に繋がることが期待される。
脱炭素化社会に向けて、水素エネルギーの活用が期待されている。水素は、気体の状態で貯蔵や長距離輸送をすると効率が損なわれるため、液体や水素化合物に変換してから貯蔵、輸送する「エネルギーキャリア」が一般的だ。水素のエネルギーキャリアとしては、アンモニアが有望視されている。
一方、アンモニアは気化潜熱(液体が気化する際に周囲から奪う熱)が高く、層流燃焼速度が遅いため、燃えにくい点がデメリットとなる。このため、燃料アンモニアの実用化に向けて、高い燃焼効率が求められる。また、粘度や密度といった物性が一般的な化石燃料と異なっており、シリンダー内の流れに関する解析が必要となっている。
同研究チームは今回、汎用的な自動車の4気筒ディーゼルエンジンにおけるタンジェンシャル吸気ポートの開口面積の違いが旋回流の発生に与える影響を調べるため、ガスケットを交換して吸気ポートの開口面積を0%、25%、50%、75%、100%と変化させた。シリンダー内の流速は、z=−10mm、−20mm、−30mmと3つの異なる測定面において、粒子画像流速計(PIV)を用いて計測した。
開口面積が0%の場合、吸気行程ではz=−10mm、−20mm、−30mmで複雑な流れを観察した。乱流運動エネルギー(TKE)および渦中心位置(SCP)の分散が拡大している。
また、圧縮行程では、z=−10mm、−20mmの測定面でも複雑な流れを観察した。一方で、圧縮行程の後半では、z=−30mmで旋回流のような流れの形成が開始した。
開口面積が25%より大きい場合、吸気行程では、ヘリカルポートのみを用いた場合と類似した傾向がみられ、シリンダー内の旋回流の形成は観察されなかった。一方で、圧縮行程の後半以降は、z=−10mm、−20mmで旋回流のような流れを観察した。また、z=−30mmでは旋回流の形成を確認した。
それぞれの開口面積において、スワール比(シリンダー内の旋回流の回転速度とエンジンの回転速度の比)を求めたところ、吸気行程ではスワール比に正弦波パターンが見られ、適切な旋回流が形成していないことが判明。一方、圧縮行程では、開口面積が大きくなるにしたがってスワール比が増加した。開口面積が25%あるいはそれ以上の場合、スワール比が定常レベルに達している。
PIVにより得た流速データを使用し、空間平均したTKEとその分散を評価した。圧縮行程では、TKEに大きな違いが見られなかったものの、吸気行程では、測定面や開口部の大きさによってTKEに明らかな違いが生じた。
具体的には、TKEの分散が大きくなるにしたがって、複雑な流れや渦巻き状の流れが生じた。分散が小さくなり始めると、旋回流が発生している。
また、SCPとその分散も評価した。吸気行程ではSCPは明確に得られなかったものの、開口面積が25%あるいはそれ以上の場合、圧縮行程中にSCPをはっきりと観察している。
また、圧縮行程中に、x-y平面でSCPのz方向への傾斜運動を観察した。複雑な流れや渦巻き状の流れが生じる条件下でのSCPの分散は、旋回流を形成する条件下でのSCPの分散よりも大きくなっている。SCPの分散が比較的小さい時は、旋回流が発生した。
同研究チームは今後、アンモニアとガソリンの混焼やアンモニアのみの燃焼による実験を実施し、今回の研究が示唆する結果を検証する。