5G/6G次世代ワイヤレス通信に向け、柔軟な薄膜高周波フェーズドアレイアンテナを開発

将来の5Gや6G世代のワイヤレス通信に必要なGHzレベルの高周波数に対応でき、形状柔軟性を持つとともに大口径アンテナを構築できる薄膜フェーズドアレイが考案された。/Photo byCan Wu

プリンストン大学の研究チームが、将来の5Gや6G世代のワイヤレス通信に必要なGHzレベルの高周波数に対応でき、形状柔軟性を持つとともに大口径アンテナを実現できる薄膜フェーズドアレイを考案した。酸化亜鉛の薄膜トランジスターを用いて、アンテナ3個からなる長さ30cmのアレイを試作して、デジタル的にプログラム制御できる狭ビーム信号を強い指向性をもって発信できることを実証した。IoTデバイスのネットワークや航空宇宙分野における、迅速で信頼性およびエネルギー効率の高い通信に応用できると期待される。研究成果が、2021年10月7日の『Nature Electronics』誌に論文公開されている。

フェーズドアレイアンテナは、隣り合うアンテナ間で特定の位相差を持って発信し、各信号間の干渉によって、電波ビームを集束させ長距離に渡って信号強度を維持することができる。加えてビームを異なる方向にスキャンできるので特定の2ポイント間の通信が可能になることから、レーダーシステムや衛星通信、移動体通信などの長距離通信システムに用いられている。

次世代移動通信システムである5Gや6Gでは、既存周波数帯よりも高いGHzレベル以上の高周波数を利用することで、信号の広帯域化が追求されているが、高周波数帯では電波伝搬損失が増大するため、多くのアンテナ素子から構成される大口径フェーズドアレイアンテナにより、更に指向性を高めた長距離通信を実現する必要がある。

ところが従来のSi半導体を用いた発振デバイスでは、5Gに必要な高周波数には対応できるものの、アンテナ素子アレイとして数cm程度にしか拡大できず、指向性の高い大規模なアレイを構成することが難しいという課題がある。そのため数百個のディスクリートなマイクロチップを集積することも検討されてきたが、コストや信頼性の観点で現実的ではないとされる。

研究チームは、このような問題を解決するために、高周波数範囲で作動するとともに、複雑な場所形状にも柔軟に設置できる、薄膜型のフェーズドアレイアンテナの開発にチャレンジした。酸化亜鉛の高速薄膜トランジスターを用いて、周波数をデジタル調整可能なインダクタ-キャパシタ発振器を作成し、これを中心としてアンテナ3個から構成される長さ30cmのアレイを試作した。

その結果、GHzレベルの狭ビーム信号を発信するとともに、指向性を高めるビームフォーミングも可能であることを実証した。「このアンテナは薄膜技術を駆使した大面積エレクトロニクスを活用したものであり、将来的に1mを超える基板上に回路を形成し、紙のような柔軟なシート状に全ての部品を一体的に統合できる。今回は、トランジスターと他の部品をガラス基板上に組み立てたが、同様のプロセスを用いて柔軟なプラスチック上に回路を組み立てることも可能だ」と、研究チームは語る。そしてこのアンテナシステムを、例えば航空機の翼のような湾曲形状に形成したり、壁紙として工場内に配置しIoTデバイスと通信する、または医療用インプラントに信号を発信する皮膚パッチとしても活用することも可能だとしている。

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Thin-film, high-frequency antenna array offers new flexibility for wireless communications

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