大面積で大量生産できるシリコン熱電発電素子を開発 東大

東京大学生産技術研究所の柳澤亮人特任助教、野村政宏教授らは2024年5月23日、物質・材料研究機構、ドイツフライブルク大学、セイコーフューチャークリエーション、TOPPAN、前田建設工業と共同で、ナノ構造化シリコン薄膜を用いた熱電発電素子を開発し、シリコンウェハー上に半導体プロセスで大量に生産しうる熱電発電素子として、世界最高の性能を達成したと発表した。従来のシリコン薄膜を用いた発電素子と比較して、性能が10倍以上向上している。

研究では、シリコンウェハーを用いてシリコン薄膜にナノ構造を形成した熱電発電素子を開発。高い発電性能を実現してる。ナノ構造を含む全ての構造をリソグラフィプロセスを用いて作製でき、素子の大面積化にも対応している。

発電素子は、ナノ構造が作製された発電素子基板に、マイクロスケールの熱流制御構造が作製されたシリコンキャップ基板を張り合わせて作製。トランジスタや加速度センサーなどと同様の一般的な手法で作製できる。

発電部となる厚さが約1μmのナノ構造化シリコン膜には、直径260nm程度の円孔が形成されている。円孔壁面の間隔nは狭いところで40nmとなっており、電気を運ぶ電子の平均自由行程よりも大きく、熱を運ぶフォノンの平均自由行程よりも小さく設計されているため、電気の流れを保ちながら熱の流れを抑制でき、熱電発電素子の性能を向上できる。

ナノ構造化シリコンを用いた熱電発電素子の模式図とナノ構造の電子顕微鏡像。
ナノ構造化シリコン膜の宙づり構造と垂直方向の柱構造を接触させることにより、素子面直方向の温度差から素子内部に熱の流れが生まれ、ナノ構造化シリコン膜の両端に温度差が生じる(上図)。ナノ構造の寸法は熱を運ぶフォノンと電子の平均自由行程の違いに着目して適切に設計されており、電子がナノ構造の隙間を流れる一方でフォノンの流れは抑制され、発電性能が向上する(下図)。

発電密度は、素子の上下面間に与える温度差を大きくしていくと二乗で増加し、温度差9K(ケルビン)で100μWcm-2に達する。発電性能の指標として用いられる発電密度は1.3μWcm-2K-2と、これまでのシリコン薄膜を用いた熱電発電素子の10倍以上の性能が得られている。

熱電発電素子とセンサや通信回路が一体となったセンサーモジュールを開発し、屋外環境で評価試験を実施したところ、モジュールに対して最大10K以上、4日間平均で3K以上の温度差が得られた。今後、10cm2程度の素子面積とすることで、平均して100μW以上発電できる。

素子外部の温度差に対して測定された発電密度と屋外実験の様子、センサモジュールの概要。
面積当たりの発電密度は温度差の二乗に比例し、9Kの温度差から100 µWcm-2の発電密度が得られ、温度差で規格化した発電性能として、1.3µWcm-2K-2を達成した(左図)。屋外における発電素子の評価試験において、モニタリングしたい構造物に熱電発電素子とセンサなどが一体となったエネルギー自立型センシングモジュールを設置した場合に10K以上の温度差が利用できることを確認した(右図)。

毎年1兆個のセンサーが消費されるトリリオンセンサー社会が到来しつつあることから、環境の未利用エネルギーを収穫してセンサーに電力を提供しうる「エナジーハーベスト技術」が重要性を増し、大量生産できる高性能熱電発電素子の実現が期待されている。

既に熱電発電素子は実用化されており、シリコンを用いた素子の研究開発が進められているが、熱電発電は電気を通しやすく熱を通しにくい材料ほど性能が高いため、熱を通しやすいシリコンは熱電材料としての性能が高くない。ナノ構造を用いると熱を通しにくくできるが、発電素子への応用には、環境中の温度差から発電部となるナノ構造に熱を効率的に伝える構造が必要となる。そのため、素子全体を熱設計した素子構造の作製と大面積化が課題となっていた。

開発したシリコン熱電発電素子は、センシング応用できる発電密度を達成している。今後、さらなる素子の大面積化で、トリリオンセンサー社会での活躍が期待される。また、張り合わせ手法を用いた3次元的な構造は、他の薄膜熱電材料を用いた発電素子にも適用できる。

関連情報

【記者発表】シリコンナノ構造で環境熱から発電――トリリオンセンサ社会に貢献―― – 東京大学生産技術研究所

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