医療×ITで進めるヘルステックの戦略とは【高齢化社会において求められる先端技術】

株式会社FiNC Technologies 坂井 俊介氏

「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」である健康寿命は、令和元年時点で、男性72.68歳、女性75.38歳となっています(参考:内閣府 令和5年版高齢社会白書)。一方で、平均寿命は男性81.05歳、女性87.09歳で、健康寿命とはそれぞれ9年、12年ほどの差があります(参考:厚生労働省 令和4年簡易生命表の概況 概況版)。健康寿命を延伸し、平均寿命に近づけていくことが、楽しく健康的な老後生活の実現につながります。

今回の連載は「ヘルステック×AI」をテーマに全2回の構成とし、第1回では「健康寿命の延伸を目指すヘルステックにおけるAI活用」と題し、ヘルステックの概要とAI活用を中心に、株式会社FiNC Technologies CTO 坂井 俊介氏にお話を伺いました。第2回では、ヘルステックの今後の展望やヘルステックの領域でエンジニアに求められることについて、ご紹介します。(執筆:後藤銀河 撮影:編集部)

<プロフィール>
株式会社FiNC Technologies
CTO プロダクト本部 技術開発部 部長 坂井 俊介氏

東京大学大学院情報理工学系研究科システム情報学専攻修了後、同社に入社。2020年からはtoC事業の開発チームのテックリードとして、チームビルディングや開発プロセス改善に従事。2022年より技術開発部の副部長に就任。ビジネス負債・技術的負債への感度が高く、内外の環境変化に適応的なプロダクト設計を得意とする。2023年5月にCTO就任。

先行プレーヤーのいないヘルステック領域の将来性

――御社はヘルステック領域の今後の展望や将来性について、どのようにお考えでしょうか?

[坂井氏]ヘルステックは「医療×IT」の掛け合わせですが、どちらの分野にも精通しているプレーヤーはほとんどいないのです。しかし、どちらかの知見が欠けているからこの領域に参入しない、という理由も考えにくいですから、新興領域としては非常にチャンスが多いと思います。ただ、人命に関わる医療行為に直接関与していく部分になると、厚生労働省の管轄で許認可も必要になりますし、治験に時間がかかるなど、ロングスパンの事業計画が必要です。

例えば、弊社が主軸としているPHR(パーソナルヘルスレコード)の領域では、未病に関するデータを医療分野の大手企業が持っているようなデータを組み合わせることで、病気とその予防医療に関する新しいソリューションにつなげる、といった展望が考えられますね。

医療の分野に新規参入し、王道の製品で事業化を進めようとすると、相当な資金と時間が必要になるでしょう。しかし、医療とITの掛け合わせなら、新しいアイデアを直ぐに試したり、大手企業では難しいようなスピード感のあるソリューション開発ができたりします。こうした点を踏まえると、新規参入企業の戦略は、大企業がやらないニッチな領域を攻める、というものが主流になるのではないでしょうか。

また、個人的な意見ですが、ヘルステックに関わる課題感は日本固有のものではなく、海外でも同じ課題があると思います。ですから、国内の需要を奪い合うのではなく、海外に事業展開して外貨を稼いで増収増益を目指すなど、海外にも通用する事業の突破力を高めることが重要で、そこに夢があるのではないでしょうか。グローバルで見てもニッチな領域である、という点が、将来の戦略を考えるときに重要なポイントになりそうです。

ヘルステックの領域に携わるエンジニアに求められること

――医療×ITに精通しているプレーヤーが少ないということは、多くのエンジニアにとっても未経験の領域になるということですね。これからこの領域に挑戦しようとするエンジニアは、どんな姿勢やスキルが求められるのでしょうか?

[坂井氏]私たちは「ユーザーにしっかり支持される」という意味での信頼性とサービスとしての信頼性、この両面の信頼性がすごく大切だと考えています。ユーザーに使われないようなサービスを作ってしまうことは、最も避けるべき最大の問題です。これは、ヘルステックの領域に限った話ではなく、アプリ開発に携わるエンジニアが共通して持っておくべきものだと思います。

エンジニアとしてユーザーのことをどれだけ想像し、支持されるサービスが作れるのか。どれだけコードを書いても使われなければ全く意味がありませんから、使ってもらえるものを作ることが一番の基本です。インターネットやアプリの向こう側にいるユーザーに対して、どれだけ想像力を持てるのか、思いをはせられるのかが、エンジニアとして大切にするべきポイントだと思います。

――ユーザー目線のサービス開発を心掛けるために、御社で実践されている取り組みなどはありますか?

[坂井氏]単にアプリを作って売るだけにならないよう、きちんとユーザーの声を拾ってフィードバックとして反映させ、継続して運用していくことを大切にしています。アプリストアにフィードバックを書いていただけることもありますから、それをきちんと拾って対応することですね。アプリを出してから、ユーザーが最初は使ってくれていた機能がだんだん使わなくなってきたとすれば、それはなぜなのか、他に何が使われているのか、データを分析するのはもちろんですが、自分で仮説を立てて検証しながら進めていくようにしています。

また、開発と運用を分けている会社もあると思いますが、私たちの開発チームでは、作ったものに対して自分たちで責任を持つことを大事にしています。アプリの評価も、従業員みんなで使って評価するドッグフーディングという活動をよくやっています。会社としても、こうした点を大切にしています。

最後まで責任を持って諦めないラストマンシップを

――エンジニアとしてテックベンチャーで働くに当たり、心掛けていることを教えてください。

[坂井氏]弊社のようなスタートアップで働くことは、世間が一般的に考える順当なキャリアとは違うかもしれません。ですが、私は大きな会社の中で守りに入るよりは、エンジニアとして自分の価値を高めていきたいという思いが強く、「自分はこれができるからこういうポジションに就きたい」とか、「自分にはこういう価値がある」ということを強くアピールできるよう、自分が進むべき道を選択してきました。

その中で心掛けていることに「ラストマンシップ」という言葉があります。ソフトスキルなのですが、何をするにしても、たとえプロジェクトを撤退しなければならなくなったとしても、自分が最終防衛線だという当事者意識と、最後にこぼれかけたボールを拾ってでも何とかするという責任感を持つことを心掛けてきました。

自分の担当範囲だけでなく、プロジェクト全体が成功して会社の成功へとつながらないと、自分のエンジニアとしての価値は上げられないと思います。先ほど弊社は開発と運用をセットで考えると言いましたが、例えばその中で過去の負債のような技術的課題やビジネス上の足枷が見つかったとして、「これは他の人が作ったものだから自分は手を出せない」と、投げ出してしまうことは簡単です。ですが、ここは自分で直せるからやりますとか、自分事として抱えて作り直すとか、積極的に関わり、改善、解決するというマインドで仕事に取り組んできました。テックリードとして数十人のチームを率いるような立場にあれば、後輩のエンジニアにもそうした姿を見せていくことが、結局は全体としての成功体験につながっていくのです。

取材協力

株式会社 FiNC Technologies

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ライタープロフィール
後藤 銀河
アメショーの銀河(♂)をこよなく愛すライター兼編集者。エンジニアのバックグラウンドを生かし、国内外のニュース記事を中心に誰が読んでもわかりやすい文章を書けるよう、日々奮闘中。


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