- 2024-6-18
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- ACS Catalysis, カスケード触媒反応, ガス拡散電極構造, クリーンエネルギー, コバルト原子, サバティエ反応, フタロシアニンコバルト, ミシガン大学, メタノール, メタン, 一酸化炭素, 中間生成物, 二酸化炭素, 分子フック, 学術, 温室効果ガス
ミシガン大学は2024年5月6日、同大学の研究チームが、フタロシアニンコバルト(CoPc)触媒を用いて二酸化炭素(CO2)をメタノール(CH3OH)に変換するカスケード反応において、CO2と中間生成物である一酸化炭素(CO)の触媒に対する親和性を定量評価するとともに、CH3OHへの変換効率に及ぼす効果を明らかにして、変換効率を向上する手法を提案したと発表した。温室効果ガスであるCO2排出量を削減するとともに、CO2をクリーンエネルギーであるCH3OHに変換する途を開くと期待している。
大気中に放出されるCO2を原料として、クリーンエネルギーに転換する技術開発が世界的に幅広く探索されている。水素(H2)との反応を用いてメタン(CH4)を製造する方法は、サバティエ反応など古くから知られているが、熱化学反応に基づく高温プロセスが必要であり、クリーンエネルギーによる商業化にはコストの課題がある。
一方、CoPcを触媒として用い2ステップのカスケード触媒還元反応により、CO2をCH3OHに変換する電気化学的な手法が知られている。これは、第1ステップでCO2を中間生成物COに変換し、第2ステップでCOをCH3OHに変換するもので、CH3OHはクリーンエネルギーの1つとして、自動車用燃料などに使用されている。だが、このカスケード触媒還元反応では優先的にCOが製造され、CH3OHの製造効率が非常に低いという問題があり、大規模に実用化することが難しかった。
研究チームは最新のコンピューターモデルを用い、電気化学的なカスケード触媒還元反応について反応速度解析を行った。その結果、CoPcは触媒としてCO2またはCOに対する分子フックのような役割を果たすが、CoPc中のコバルト原子にCO2またはCOがどのくらい強く結合するかという親和性が重要であることを突き止めた。
CoPcはCOよりCO2に対して3倍も強く結合するため、第1ステップで中間生成物COが製造されると、それがCH3OHに変換される前に、コバルト原子がCO2を強く引き付けてCOが排除されてしまうことを実験的に確認した。更に、電気化学的触媒反応におけるガス拡散電極構造がCO2の物質輸送を促進しており、CH3OHへの変換を妨げていることもわかった。
一方で、CoPc触媒周囲におけるCO2濃度がCO濃度より相対的に低い条件では、CO からCH3OHへの変換が確実に発生することも観察された。そのようなことから研究チームは、CoPc触媒のガス拡散電極構造を最適化して、COとの相互作用を強めるとともにCO2の物質輸送を制御することにより、CH3OHの変換効率を向上できるとの結論に達した。
研究チームは、「この問題について様々な見識を持っている科学者やエンジニアがワンチームとなって、知識を集約して最適システムを設計できた。気候変動の元凶である排出CO2を大規模かつ効率的にクリーンなCH3OH燃料に変換できる途が拓けた」と期待している。
研究成果は、2023年12月19日に『ACS Catalysis』誌に論文公開されている。