- 2024-7-2
- エンジニアキャリア紹介, 機械系
- エネルギーシフト, エンジニア, チャレナジー, マグナス効果, 原子力発電, 小型風力発電機, 火力発電, 電動バイク, 電気自動車(EV), 風力発電機
株式会社チャレナジーは、独創的な風力発電機を開発するスタートアップだ。2011年の東日本大震災発生時の福島原発事故をきっかけに、代表の清水 敦史氏がエネルギーシフトに革命をもたらす事業を興すことを決意。風力発電の導入・普及に際する制約や課題が多いとされてきた日本であるが、同社ではそれらに適した風力発電システムの開発を進めてきた。
ある日、同社の門をたたいた一人のエンジニアが、山下 和也氏だ。彼に風車の設計経験はなく、重工業やエネルギー関連の企業での勤務経験もなかったが、現在、小型風力発電機の設計に一から携わっているという。今回はそんな山下氏に、エンジニアになったきっかけやチャレナジーに入社した経緯、風車設計の実務、働き甲斐などについて話を聞いた。(取材・執筆:小林 由美 撮影:編集部)
凝り性のガンプラ少年が目指した機械設計エンジニアの道
――山下さんが、機械設計者を目指したきっかけは?
[山下氏]中学時代にプラモデル作りに目覚めました。特にガンダムシリーズが大好きだったので、ガンプラを結構作っていましたね。自分は結構な凝り性なので、ただ組み立てるだけではなく、改造にはまってしまい、凝った塗装をしたり、プラ板を駆使してカスタムパーツを製作したりしていました。塗装でベランダを汚して、よく親に叱られていましたね(笑)。まずそれが、ものづくりに興味を持つことになった原点だと思います。将来もものづくりの仕事がしたいと考え、機械設計の総合技術が学べる専門学校に入学しました。
──専門学校ではどんなことを学びましたか?
[山下氏]学校の方針が「卒業後に現場ですぐに働ける人材の育成」だったこともあり、機械製図や設計の基本だけではなく、材料力学、機械加工、CADの操作、機械加工実習まで、機械設計の現場に出るために必要な知識を、2年間で一通り教えてくれました。卒業後に一度、職業訓練校でもう少し深いものづくりの知識を学んでいた時期もあります。
──もともとプラモデル作りが好きで、そして学生時代に機械加工などものづくりの実務も体験したことは、その後の仕事で自身の武器になったのでしょうか?
[山下氏]そうですね。職業訓練校の後に就職した会社で、設計の疑問点や懸念点にいち早く自分で気付いて、よりよいものづくりに貢献することができたなど、過去の学びが機械設計エンジニアとしての強みとなっていることを実感しました。
ものづくりはしたいけれど、どの業界で働きたいかまではよく分からず
――卒業後は、どのような企業に就職したのですか?
[山下氏]学生時代は「仕事でも、ものづくりがしたいなぁ」という思いだけで、正直、「どの業界で働きたいか」といったビジョンが、まだきちんと描けていなかったのです。そこで、ひとまずいろいろな業界でものづくりの現場を経験したい考え、それが叶う働き方ができるアウトソーシングの企業を選びました。
──就職後に配属された企業ではどんな業務を担当しましたか?
[山下氏]何社か経験しましたが、搬送機械や梱包機械の設計に携わりました。実験もたくさんやりましたね。特に配属1社目の企業は、自分が設計にかかわる製品の、試作から量産準備、リリースまで全てエンジニア自身が担当するという方針で、それは派遣社員であっても同様でした。設計して、製図して、試作して、実験して……といった一連の流れを担当することができました。応力解析などは手計算が中心でしたが、専門性が高い解析は、解析専門の部署と連携して行っていました。その後、配属される企業が変わり、設計する機械が変わったときにも、培ってきた設計の知識を生かすことができたと思います。
――その後、転職をされていますが、どのようなきっかけがありましたか?
[山下氏]30歳も近づいてきて、そろそろ1つの業界に絞って、自分自身のキャリアのコアとなる技術をじっくり磨きたいと考えたからです。20代最後の挑戦がしたい、と。
そしてチャレナジーへ
――チャレナジーを知る前に、エネルギー業界に興味を持った理由やきっかけがあったのでは?
[山下氏]テレビなどの報道で、国内の火力発電や原子力発電関連の課題提起や議論がたびたび取り上げられていて、それを見ていた私も、「こうしたエネルギーに頼っていたら、後々エネルギーや環境の問題が厳しくなるのでは」と素人なりにですが考えるところがあって……。それがきっかけでしたね。
――チャレナジーを選んだ理由を教えていただけますか?
[山下氏]転職活動をしながら、エネルギー関連の企業の求人をいろいろ調べていたら、風力発電機を開発している「チャレナジー」という面白い会社の情報が目に入ってきました。メディアを通じて新しい技術開発にどんどんチャレンジしていることを知って、「自分も次世代のものづくりにチャレンジしたい」と思って入社を決めました。他にも内定をいくつかいただいていましたが、エネルギー関連のものづくりで次世代のためになり、少数精鋭で意見を出しやすくアイデアを採用してもらえそう、いろいろなことにチャレンジさせてもらえそうだと感じ、チャレナジーへの入社を決めました。
――チャレナジーではどんな仕事を担当していらっしゃいますか?
[山下氏]小型風力発電機の設計を担当しています。コンパクトで、低回転数かつ低騒音で、設置が容易な風車です。都市部での設置や災害時の電力としての活用も想定したモデルです。
実機としては、これまでに既にType D(※1)とType A(※2)の2機種、東京ベイエリア・海の森水上競技場に、置き基礎型(※3)の風車を設置しています。私は、新たな風車の実証に用いる設計に関わっています。私が入社した時期にちょうどキックオフした風車があり、今は図面が完成した段階ですが、実機ができるのがとても楽しみです(2024年4月取材当時)。
――風車の設計で課題になることは何ですか?
[山下氏]一般的なプロペラ風車と比較すると、当社で採用するサボニウスやマグナス(※4)といった方式の発電効率が控えめなところでしょうか。いかに発電効率を高められるか。その分、設備利用率を高めて少しでも多くの発電量を目指しています。当社では小型化だけではなく大型化にも取り組んでいて、チャレンジングな取り組みですが、やりがいもあると感じています。
――現在、山下さんがチャレンジしていることは?
[山下氏]過去にも強度検証は結構やってきたつもりでしたが、風車設計の強度に関する考え方はこれまでと大きく異なりました。それまで設計していた機械は室内で使用するものだったので、検討するのは静荷重と動作時の荷重くらいだったんですよ。しかし風力発電機は屋外、しかも台風など過酷な環境での稼働まで考慮しなければならないので、かかる荷重は想定していたよりも巨大で、かつ計算も非常に複雑になるので、よく「うーん、どうしよう……」と悩んでます(笑)。前職はシミュレーション業務も専任部署にお願いしていましたが、今は自ら考え、業務の幅やスキルを広げることができています。
――なかなかプレッシャーが大きく、大変そうですね。
[山下氏]もちろん大変さはあります。入社当初は、設計のアシストからスタートするものだと思っていたのですが、最初から設計の仕事を任せてもらえたので、正直、プレッシャーも感じますが、ワクワクした気持ちの方が大きかったですね。
これまでアウトソーシング業界にいたので、「新しい環境で働く」ことにも慣れていたし、新しいことへのチャレンジばかりでした。難易度の高い課題があっても、失敗したとしても、チャレンジした後に新しいことが吸収できます。私は当社に入社して3カ月ですが、この短期間でも非常に多くのことを吸収することができて、エンジニアとしての成長を実感しています。
――チャレナジーという会社は、どのようなところですか?
[山下氏]エンジニア一人ひとりの影響力が大きいと感じます。自分の意見やアイデアが実際に取り入れられることが多いので、非常にやりがいを感じますね。また周囲の先輩方にも、日々の業務の中で助けてもらっています。実務について質問すると、理論面から非常に深く、かみ砕いて分かりやすく教えてくれます。実践主体の専門学校を卒業し、以前の仕事もどちらかというと感覚や経験を頼りに職人気質で仕事をしてきたのですが、そこに理論の裏付けが加わって、自分自身の知見に深みが出ていると感じます。特に、私の課題でもある風車の強度解析の部分は強く実感しますね。人間関係も良好な職場で、皆仲が良いです。
――ありがとうございます。山下さんは今後、エンジニアとしてどのように成長していきたいですか?
[山下氏]現在取り組んでいるプロジェクトをしっかりと完了させ、「1つのプロジェクトを最初から最後までやりきった」という経験をして、エンジニアとしての自信につなげたいです。今は、まだ目先のことをこなすので精一杯で、社内の先輩たちにフォローしてもらっている状況ですが、いずれは自分がフォローする側になっていきたいですね。
自分自身が作ったもので、直接社会に貢献
――設計開発業務で、大事にしていることはありますか?
[山下氏]設計者は、設計実務のみにフォーカスしがちですが、加工や組み立て、品質保証など、ものづくりにかかわるさまざまな工程に目を向け、そうした部門の人たちとしっかりコミュニケーションを取り、そこで得た情報を自分の設計や製図に取り入れることが大事だと思っています。
――エネルギー業界の仕事のやりがいは、どういうところでしょうか?
[山下氏]「自分自身が作ったもので、直接社会に貢献できる」ことだと考えています。私が担当している小型風力発電機は、先ほど説明した都市部や災害時での利用もそうなのですが、離島での活用にも有効です。日本には離島が多いですが、そこでは電力を賄うために海底ケーブルが設置され、施工や保守にも多額の費用がかかります。そこで、容易に設置できることが利点の小型風力発電機が島内で普及すれば、住人の方々も生活がしやすくなりますよね。また、離島ではガソリン代も高くなりがちですが、小型風力発電機が電気自動車(EV)や電動バイクの充電インフラとしての有効手段になれると思っています。そのように、自らが設計にかかわる当社の技術で、未来の日本や世界をよりよくしていけたらいいなと思っています。
取材協力
ライタープロフィール
小林 由美(こばやし・ゆみ)
facetライター、編集者。大手メディア企業で製造業専門サイトの立ち上げから参画し、編集記者として約12年間、技術解説記事の企画や執筆の他、広告企画および制作、イベント企画などに従事。2020年5月にfacetとして独立。製造業や製造業向けITに特化した取材活動や原稿執筆、編集支援などに関わる。