- 2025-1-17
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Credit: Nature (2024). DOI: 10.1038/s41586-024-08118-0
米カリフォルニア大学アーバイン校(UC Irvine)の研究チームが、高温超伝導材料として注目を集めているセレン化鉄(FeSe)薄膜の超伝導発現メカニズムを、原子レベルで明らかにすることに成功した。最先端の振動分光装置を用いて、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3、STO)基板上に積層されたFeSe単層薄膜の界面における原子振動を解析し、新しいフォノンモードを発見するとともに、電子との強いカップリングが存在することを突き止めたものだ。研究結果が、2024年10月30日に『Nature』誌に公開されている。
2008年に東京工業大学の研究グループによって、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3、STO)基板上に形成されたFeSeの単原子層が高温超伝導現象を示すことが発見されて、引き続いて65K(約-208℃)という極めて高い超伝導転移温度を持つことが明らかにされ、注目を集めてきた。この高い超伝導転移温度は、FeSe単層薄膜中の電子とSrTiO3基板中のフォノンの波動関数の空間的な重なりであるカップリングによって発現すると説明されていたが、一方でそれだけでは説明できないという実験結果もあり、高温超伝導の起源は必ずしも明確になっていなかった。
研究チームは、高速電子が固体に入射し、物質中の電子や原子核とのクーロン相互作用によってエネルギーを失った非弾性散乱電子を、エネルギー損失量だけでなく運動量移送の関数として分光する、最先端の運動量移送高分解エネルギー損失分光装置を用いることによって、FeSe/SrTiO3界面におけるフォノンを原子レベルで解析することを試みた。その結果、エネルギー損失が75~99meVの範囲で新しい光学モードのフォノンが存在することを発見し、電子と強いカップリングを持つことを見出した。このフォノンは、界面TiOx層における酸素原子およびSTOの頂点酸素原子の面外振動から発生しており、さらに電子-フォノンのカップリングの強さと超伝導ギャップは、FeSe層とSTO界面TiOx層の間の界面空間距離の均質性と緊密な関係があり、均質性が向上すると超伝導を生じる温度が高くなることも確認した。
「最先端分光装置の極めて高い空間的およびエネルギー的な分解能により、理論解析に必要な核心的な実験データが得られた。理論シミュレーションと実験観察の組合せにより、超伝導転移温度の上昇に対する個々の原子の寄与を正確に特定し、界面における超伝導発現メカニズムに関する理解を深めることができた。他の超伝導材料の原子的メカニズムに対しても重要な示唆を与える」と、研究チームは説明する。量子コンピューターや磁気浮上による大量輸送、先進医療診断と治療デバイスを含む、広汎な応用における超伝導システムの実用的な作製と活用の実現に向けて、大きな一歩になると期待している。