- 2025-1-24
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- AI, AIフレームワーク, Diffeomorphic Mapping Operator Learning(DIMON), Nature Computational Science, エンジニアリング設計ソリューション, ジョンズ・ホプキンス大学, スーパーコンピューター, デジタルツイン, パーソナル・コンピューター, 偏微分方程式, 学術, 工学問題, 心疾患
米ジョンズ・ホプキンス大学は2024年12月9日、同大学を中心とした研究チームが、複雑な工学問題をスーパーコンピューターより速く解く新AI「Diffeomorphic Mapping Operator Learning(DIMON)」を開発したと発表した。患者の心臓のモデルを高精度かつ短時間でシミュレーションでき、心疾患の診断にも役立つ。
ほぼすべての科学工学研究において、至るところに存在する数学の問題が偏微分方程式だ。偏微分方程式を使うことで、現実世界のシステムやプロセスを、物体や環境が時間や空間の中でどのように変化していくかという数学的表現に変換できる。衝突試験や整形外科の研究など、形状や力、材料が変化する複雑な問題のように、多様な幾何学的特性に関する偏微分方程式を解くには、通常はスーパーコンピューターが必要になる。
新しく開発されたAIフレームワークのDIMONは、偏微分方程式を従来の技術と比べて数千倍もの速さで解くもので、パソコンで大規模な数学問題の解を求めることが可能になる。
一般に、偏微分方程式は、飛行機の翼や身体の器官のような複雑な形状を、小さな要素で構成されるグリッドに分割し、単純な部分ごとに問題を解いて再結合する。しかし、衝突や変形などによって分割された部分の形状が変化した場合、グリッドを更新して解を再計算しなければならず、計算速度が遅くなりコストがかかる可能性がある。
DIMONは、AIを使って異なる形状間で物理システムがどのように振る舞うかを把握し、この問題を解決するので、新しい形状ごとにすべてをゼロから再計算する必要はない。形状をグリッドに分割して方程式を繰り返し解く代わりに、このAIは学習したパターンに基づいて、熱、応力、運動などの要因がどのように振る舞うかを予測する。そのため、設計の最適化や形状固有のシナリオのモデリングのようなタスクが、はるかに高速でより効率的になる。
さらに、研究チームは、DIMONフレームワークに不整脈の原因となる心臓病理を組み込もうとしている。不整脈とは心臓の電気インパルスの異常によって心臓が不規則に拍動している状態のことで、研究チームは偏微分方程式を解くことで不整脈を研究している。実際の患者の心臓をコンピューター上で非常に詳細に再現した心臓の「デジタルツイン」を使うことで、患者が致命的な症状を発症する可能性があるかどうかを診断し、その治療法を提案できる。
研究チームが1000人以上の心臓のデジタルツインでDIMONをテストしたところ、DIMONは、それぞれ異なる心臓の形状で電気信号がどのように伝播するかを予測でき、高精度の予後予測を達成した。
これまでの技術では、患者の心臓をスキャンして偏微分方程式を解いてから心臓突然死のリスクが高いかどうかを予測し、最適な治療計画を立てるまでに1週間ほどかかっていた。中でも心臓のデジタルツインの予測計算には何時間もかかっていたが、この新しいAIを使ったアプローチでは30秒に短縮された。
DIMONは、流体や電流がさまざまな形状を伝播する際の挙動をモデル化するために必要とされる、解くまでに時間がかかる広範な数学方程式の解を迅速に予測できる、汎用的なアプローチであるといえる。研究チームは多様な問題にDIMONを活用するだけでなく、より広い地域社会にDIMONを提供し、エンジニアリング設計ソリューションを加速させたいと考えている。
研究成果は『Nature Computational Science』に掲載された。