結晶の「ズレ」が音速を超えて伝播することを実証――超高速X線イメージングで観察 大阪大学ら

高輝度光科学研究センターは2023年10月5日、大阪大学や理化学研究所(理研)などの研究グループが、結晶中の転位が物質固有の音速よりも速く伝播する現象を、理研のX線自由電子レーザー施設「SACLA」で確認したと発表した。研究グループは、転位の伝播の最高速度は横波の音速を超えないという、従来の常識を覆す研究結果だとしている。

研究グループには、米スタンフォード大学、米ローレンス・リバモア国立研究所、仏エコール・ポリテクニーク、名古屋大学、高輝度光科学研究センター、量子科学技術研究開発機構、英国原子力公社などの研究者も参加している。

あらゆる結晶の中には転位と呼ばれる「結晶構造のズレ」が無数に存在し、結晶に外力を加えると、破壊することなく結晶構造を保ったまま変形する「塑性変形」が生じる。塑性変形は、原子レベルのズレである転位が伝播することで起こるが、転位の伝播の速度について、物質中を振動が伝わる速度、つまり音速を超えるのかという議論が半世紀以上にわたって続いている。

これまでは「結晶中の転位の伝播速度は横波の音速を超えない」という説が主流だったが、最近の研究では「転位が音速を超えて伝播する可能性がある」という説も有力になり、実験による検証が求められていた。

研究グループは、ハイパワーレーザーを用いて単結晶ダイヤモンドを高速変形させて生成した積層欠陥の伸展を、理研のX線自由電子レーザー施設「SACLA」でX線ラジオグラフィという手法を使って、直接観察した。通常は割れやすい材料として分類されるダイヤモンドだが、衝撃波による高速変形中のごく短い時間内では塑性変形をしており、塑性変形の領域で積層欠陥の端が伸展する速度は、転位の伝播する速度ということになる。

こうした手法で積層欠陥の高速な伸展を直接観察した結果、単結晶ダイヤモンド中の転位が横波の音速よりも速く伝播していることを確認した。また、高速で伝播する転位から連続的に新たな波が発生する様子も観察されており、複雑な固体の振る舞いについてさらに新しい知見が得られる可能性もある。

研究グループは、高速な変形を受けた結晶の変形ダイナミクスを高精度にモデリングする上で重要な研究成果で、大地震がもたらす破壊の予測や、宇宙空間など極限環境下で用いられる防護壁の高性能化などへの応用が期待できるとしている。

研究成果は2023年10月5日、米国科学振興協会(AAAS)刊行の学術誌Scienceでの掲載に先立ち、オンライン公開された。

関連情報

結晶の“ズレ”が音速を超えて伝播することを実証 半世紀にわたる未解決問題を超高速X線イメージングで明らかに(プレスリリース)—SPring-8 Web Site

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