- 2023-10-30
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昨今、日本列島において、集中豪雨や洪水といった気象災害が起きやすくなっています。これには地球温暖化による気候変動が大きく関係しているとされ、世界各国で温室効果ガスの削減に向けた取り組みがなされています。
そのような話題の中で、よく見聞きするキーワードが「カーボンニュートラル」ではないでしょうか。今、世界は大変革を求められており、このカーボンニュートラルに人類の存続がかかっていると言っても過言ではありません。
この記事では、カーボンニュートラルについて、その意味や必要性、取り組み例などを解説します。
目次
カーボンニュートラルとは?意味は?
カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの「排出量」と「吸収量および除去量」が差し引きゼロになる状態のことです。
菅 義偉首相(当時)は、2020年10月の臨時国会で「2050年カーボンニュートラル宣言」をしました。「我が国は、2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします」と所信表明演説で述べています。
温室効果ガスには、石炭や石油などの化石燃料を燃やして作る、エネルギー起源のCO2(二酸化炭素)を中心として、メタンやN2O(一酸化二窒素)、フロンガス(ハイドロフルオロカーボン類、パーフルオロカーボン類、六フッ化硫黄、三フッ化窒素)などがあります。
これらの温室効果ガスの排出をゼロにするのは難しいため、吸収および除去した分を差し引いて「全体としてゼロ」にするのがカーボンニュートラルです。
カーボンオフセットとの違い
カーボンオフセットの「オフセット」には「埋め合わせ」という意味があります。
企業や自治体などは、まず自ら温室効果ガスの排出量を削減する努力が求められます。しかし、どうしてもカーボンニュートラルを達成できない場合もあるでしょう。
そこで、他の企業や自治体などが実施するカーボンニュートラルへの取り組みに資金提供することで、オーバーした排出量を埋め合わせるのがカーボンオフセットです。
日本では「J-クレジット制度」により、国が認証したクレジット(排出削減量および吸収量)を売買できます。
ネットゼロとの違い
ネットゼロの「ネット」には「正味」や「実質」という意味があります。そのためネットゼロは、温室効果ガスの排出量と、吸収量および除去量を差し引きして「正味ゼロ」「実質ゼロ」にするという意味で使われます。
一方、カーボンニュートラルの「ニュートラル」は「中立的」や「中間的」という意味で、温室効果ガスの排出量と、吸収量および除去量がどちらにも傾かずバランスを保っているというニュアンスです。
多くの場合、ネットゼロとカーボンニュートラルは、ほぼ同じ意味で使われています。しかし、厳密な定義としては、カーボンニュートラルよりネットゼロの方が、対象範囲が広いです。
カーボンニュートラルは、スコープ1(自社施設からの直接排出)とスコープ2(自社施設が購入した電気や熱の使用に伴う間接排出)が対象範囲です。それに対してネットゼロは、スコープ1とスコープ2に加えて、スコープ3(関連他社による間接排出)も対象範囲になっています。
カーボンニュートラルに取り組む必要性
産業革命以来、石炭や石油などの化石燃料を燃やし、そのエネルギーで世界は発展してきました。しかし、その弊害として地球温暖化が進んでいます。気象庁のデータによると、世界の年平均気温は100年あたり0.74℃の割合で上昇しています。(出典:気象庁ホームページ 世界の年平均気温偏差の経年変化(1891〜2022年))
また、地球温暖化は、ただ気温が上がるだけではありません。気候変動により集中豪雨や洪水、干ばつ、森林火災などの気象災害が起きやすくなります。世界気象機関(WMO)は2021年に、世界の気象災害は過去50年間で約5倍に増加し、経済損失は3兆6400億ドル(約546兆円)に達していると発表しました。(出典:World Meteorological Organization Weather-related disasters increase over past 50 years, causing more damage but fewer deaths)
このまま地球温暖化を放置すると、農林水産業をはじめ、さまざまな業界の経済活動に影響が出るため、持続可能な社会に向けて、カーボンニュートラルへの取り組みが求められています。
2021年11月時点で154カ国、1地域が2050~2070年までのカーボンニュートラル達成を表明しています。(出典:経済産業省 資源エネルギー庁「令和3年度エネルギーに関する年次報告」エネルギー白書2022第1節 脱炭素を巡る世界の動向 1.脱炭素に向けた潮流)
カーボンニュートラル実現のための取り組み4つ
①再生可能エネルギーへの転換
資源エネルギー庁が作成した「総合エネルギー統計」の「令和3年度(2021年度)エネルギー需給実績(確報)」によると、日本の2021年度の電源比率は、火力発電が72.9%と大部分を占めています。火力発電は、石炭や石油などの化石燃料を燃やすため、CO2を大量に排出します。
2050年にカーボンニュートラルを達成するためには、化石燃料依存からの脱却が必要です。そこで有力視されているのが再生可能エネルギーです。
再生可能エネルギーとは、化石燃料のように枯渇することなく、利用しても短期間で再生でき、繰り返し使えるエネルギーのことです。主な再生可能エネルギーとして、「太陽光」「風力」「地熱」「水力」「バイオマス」の5種類があります。
再生可能エネルギーの導入に向けて、政府も最大限の取り組みを実施しています。再生可能エネルギーの比率は、2010年度は9%でしたが、2021年度には20.3%に伸びており、2030年度には22〜24%程度を目指しています。2030年度の火力発電は56%程度に抑えられる見込みで、いずれは、再生可能エネルギーの主力電源化が望まれています。
②省エネルギーへの取り組み
化石燃料の使用を減らすには、代わりとなる再生可能エネルギーの導入・拡大とともに、省エネルギーへの取り組みを強化し、エネルギーの使用そのものを減らす対策が必要です。
消費電力の少ないLEDや、燃料消費の少ない高効率給湯器の導入。省エネ性能向上のために、製品に省エネ性能や年間の目安エネルギー料金を表示するトップランナー制度。他にも自動車の燃費改善や、次世代自動車の普及、トラック輸送の効率化などが挙げられます。
2030年度以降の住宅、建築物の省エネ性能基準には、ZEH(Net Zero Energy House)やZEB(Net Zero Energy Building)があります。また、住宅や建築物、工場の省エネ管理システムとして、HEMS(Home Energy Management System)やBEMS(Building Energy Management System)、FEMS(Factory Energy Management System)などがあります。
③CO2を回収して貯留する取り組み
排出されたCO2を回収し、地中に貯留することで温室効果ガスを削減する取り組みがあります。
CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)は、発電所や工場などから排出されたCO2を他の気体から分離して回収する技術です。CO2を通さない泥岩などの遮蔽(しゃへい)層の下にある、隙間の多い砂岩などの貯留層にCO2を圧入して貯留します。
また、CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)という、CO2を利用する技術もあります。CO2を古い油田に注入し、残っている原油の押し出しに利用しながらCO2を貯留するなどの例があります。
④カーボンリサイクルへの取り組み
CO2を廃棄物として扱うのではなく、資源として再利用するカーボンリサイクルへの取り組みも進められています。
CO2は、ポリカーボネートやウレタンなどの含酸素化合物、ポリプロピレンやポリエチレンなどのオレフィン、BTX(ベンゼン、トルエン、キシレン)、バイオマス由来の化学品の原料として使われます。
また、メタンなどのガス燃料、ジェット燃料やディーゼルなどの微細藻類バイオ燃料、メタノールやエタノールなどのCO2由来の燃料などにも、CO2は再利用可能です。
製鉄やセメントの製造工程で使用される炭酸塩の原料にしたり、コンクリート製品を製造するときにCO2を吸収させたりする技術も開発されています。
カーボンニュートラルに向けた日本の取り組み施策
グリーン成長戦略
グリーン成長戦略は、2050年のカーボンニュートラル達成に向けて、予算や税制、金融、規制改革・標準化、国際連携などについて、国の政策を総動員する戦略です。
同戦略に基づき、政府は2050年に向けて成長が期待される14の重点分野を選定しています。
(出典:経済産業省 2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略)
・エネルギー関連産業(4分野)
「洋上風力・太陽光・地熱」「水素・燃料アンモニア」「次世代熱エネルギー」「原子力」
・輸送、製造関連産業(7分野)
「自動車・蓄電池」「半導体・情報通信」「船舶」「物流・人流・土木インフラ」「食料・農林水産業」「航空機」「カーボンリサイクル・マテリアル」
・家庭、オフィス関連産業(3分野)
「住宅・建築物・次世代電力マネジメント」「資源循環関連」「ライフスタイル関連」
ゼロカーボンシティ宣言
ゼロカーボンシティ宣言は、自治体によるカーボンニュートラル達成への表明です。2023年9月29日時点で、991の自治体(46都道府県、558市、22特別区、317町、48村)が「2050年までに二酸化炭素排出実質ゼロ」を表明しています。
カーボンニュートラルの実現には、現状把握から計画策定、合意形成に至るまで一筋縄ではいきません。そこで、ゼロカーボンシティ宣言をした自治体は、環境省から支援が受けられます。
「自治体の気候変動対策や温室効果ガス排出量等の現状把握(見える化)支援」「ゼロカーボンシティの実現に向けたシナリオ等検討支援」「ゼロカーボンシティ実現に向けた地域の合意形成等の支援」を柱に、ノウハウや人材が不足していてもカーボンニュートラルに取り組めるようになっています。
デコ活
「脱酸素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動」として「デコ活」が推進されています。デコ活の「デコ」は、脱炭素(Decarbonization)とエコ(Eco) を組み合わせた造語です。
脱炭素社会の実現には、国民の行動変容やライフスタイルの転換が必要不可欠です。そのため政府は、10年後の豊かな暮らしのビジョンとともに、具体的なアクションや選択肢を提示し、自治体や企業、団体と連携した取り組みやキャンペーンを展開していきます。
また、新しいライフスタイルや官民連携によるイノベーションを、日本から世界へ発信することも計画しています。
カーボンニュートラルに向けた海外での取り組み施策
地球温暖化への取り組みとなる「パリ協定」
パリ協定は、2015年にフランスはパリで開催された「国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)」において、温室効果ガスの削減について取り決められた国際的な枠組みです。
パリ協定では「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」という長期目標が掲げられました。そのために、できるかぎり早く世界の温室効果ガスの排出量をピークアウトさせ、21世紀後半にはカーボンニュートラルを達成することを目指しています。
パリ協定の注目すべき点は、対象国が京都議定書のように先進国だけでなく、途上国を含めた全ての国に温室効果ガスの削減努力を求めているところです。
EUのビジョン「A clean planet for all」
欧州委員会は2018年に、2050年のカーボンニュートラル達成に向けて「A clean planet for all」というビジョンを公表し、8つのシナリオを提示しました。
まず、以下の5つのシナリオで温室効果ガス80%減を目指します。①全てのセクターで電化を重点化する「電化」、②産業や輸送、建物分野で水素を利用する「水素」、③産業や輸送、建物分野にてCO2を原料とする合成燃料(e-fuel)を利用する「Power-to-X」、④全てのセクターにおいてエネルギー効率を向上させる「省エネルギー」、⑤リサイクルやリユースなどで資源や材料の効率を向上させる「資源循環」です。
これら5つの技術オプションを、⑥「組み合わせ」ることで温室効果ガスを90%削減し、さらに⑦BECCS(BioEnergy with Carbon Capture and Storage)などのネガティブエミッション技術や、⑧ライフスタイルなどの行動変容を含めることにより、カーボンニュートラル達成を目指します。
カーボンニュートラルに向けた日本企業の取り組み事例
カーボンニュートラルに向けた日本企業の取り組み事例として「三井不動産」「トヨタ自動車」「佐川急便」の3社を紹介します。
三井不動産
三井不動産は、グループ全体の温室効果ガス排出量を2030年度までに2019年度比で40%削減、2050年度までにネットゼロを目指しています。
具体的な行動計画は「新築・既存物件における環境性能向上」「物件共用部・自社利用部の電力グリーン化」「入居企業・購入者へのグリーン化メニューの提供」「再生可能エネルギーの安定的な確保」「建築時のCO2排出量削減に向けた取り組み」の5つです。
他にも重要な取り組みとして「森林活用」「外部認証の取得」「オープンイノベーション」「街づくりにおける取り組み」「社内体制の整備」を掲げています。
トヨタ自動車
トヨタ自動車は「トヨタ環境チャレンジ2050」として「ライフサイクルCO2ゼロチャレンジ」「新車CO2ゼロチャレンジ」「工場CO2ゼロチャレンジ」の3つを計画し、2015年から取り組みを開始しています。
ライフサイクルCO2ゼロチャレンジは、製造だけでなく、物流や走行、リサイクルなど、自動車に関わる全てのライフサイクルにおいてカーボンニュートラルを目指しています。2030年のマイルストーンは、2019年比で30%削減です。
新車CO2ゼロチャレンジでは、新車の走行時に排出する温室効果ガスだけでなく、燃料や電力の製造段階で排出する温室効果ガスも含めて、カーボンニュートラルを目指します。2030年までに、乗用車と小型商用車は2019年比で33.3%削減、中型貨物車と大型貨物車は同11.6%削減。また、2035年までに50%以上の削減を目標としています。
工場CO2ゼロチャレンジは、風力および太陽光発電などを活用し、工場の生産においてカーボンニュートラルを、2050年を待たずに2035年で達成する計画です。
佐川急便
佐川急便は、天然ガストラックやハイブリッドトラック、EVトラックなどCO2の排出量が少ない「環境対応車」を導入しています。
また、台車や自転車を使った「環境にやさしい集配」をするためのサービスセンターを設置しています。サービスセンターを1カ所増やせば、トラックの使用を3〜5台減らせる計算です。サービスセンターは全国に約325カ所あり、1,500台相当のトラックの使用を抑制しています。各地域から大型集約施設に荷物を集約し、行き先ごとにまとめて輸送することでもトラックの使用を減らしています。
さらに、長距離貨物輸送をトラックではなく、CO2の排出量が少ない列車や船に切り替えるモーダルシフトも推進中です。
カーボンニュートラルの今後の課題は?
カーボンニュートラルの達成には、製品やサービスの脱炭素化に向けて、企業による大規模な投資が必要です。これを促進させるには、カーボンニュートラルに取り組む企業が正当に評価されなくてはいけません。
また、EUでは、温室効果ガスの削減努力がなされていない国からの輸入品に 課徴金を賦課する制度(炭素国境調整措置)の、移行期間における適用が始まりました。このように2050年に向けて、これからさまざまな国際的ルールが形成されることでしょう。
ここでカーボンニュートラルの潮流に乗り遅れてしまうと、ルールに振り回されて国際競争力が弱くなってしまいます。そうならないためには日本がリーダーシップを取り、カーボンニュートラルを先導していくビジョンが必要です。
そこで、経済産業省は2023年度に「GXリーグ」を立ち上げました。GXリーグは、カーボンニュートラルを目指す中で経済社会を変革させるGX(グリーントランスフォーメーション)において、「未来社会像対話の場」「市場ルール形成の場」「自主的な排出量取引(GX-ETS)の場」を提供し、GXに取り組む企業が政府や地方公共団体、大学などと協働できる場となります。
まとめ
2050年のカーボンニュートラル達成には、国や企業の取り組みとともに、国民一人ひとりの意識改革が必要です。地球温暖化による猛暑や集中豪雨、洪水、干ばつ、森林火災などの気象災害は、決して他人事ではありません。
カーボンニュートラルを目指す企業の製品やサービスを利用したり、「デコ活」で提案されているアクションや選択肢を試してみたり、できるところから少しずつカーボンニュートラルに貢献してみてはいかがでしょうか。